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 元アイドルで純情派女優として知られた酒井法子が常習的な覚醒剤の所持と使用の疑いで逮捕されて最近初公判が行なわれたことは、連日のニュース等で皆さんもよく知っていることと思います。酒井被告に限らず昔から芸能人の薬物使用事件は跡を絶ちません。今回は覚醒剤やその他の麻薬とされる危険な薬物について特集し、その危険性を訴えました。

危険な禁止薬物

薬物依存と覚醒剤
【1芸能界と薬物依存〜芸能界“薬物汚染”の深刻〜】
【2】覚醒剤とは何か?〜その恐るべき実体〜
【3】麻薬をめぐる文化と現代世界
〜覚醒剤だけではない!危険なクスリの実態〜
【4】薬物依存症とその治療〜ダメ。ゼッタイ。〜


【1】芸能界と薬物依存〜芸能界“薬物汚染”の深刻〜

 この夏はアイドルで純情派女優だった酒井法子の覚醒剤事件でマスコミはもちろん世間も連日大騒ぎしていました。でも振り返ってみると、芸能人と称する人たちの薬物汚染事件が頻発しているのはいまに始まったことではないことが直ぐに分かります。
 芸能界ばかりでない現代における深刻な薬物汚染の状況に目を向けるためにも、本節では、まずは酒井法子被告や押尾学被告の事件を詳しく紹介・解説しました。
頻発する芸能界における深刻な「薬物汚染」事件

 本項では、まず手始めに酒井法子容疑者と押尾学被告の事件を振り返ることで、芸能人のクスリへの認識の甘さを指摘しました。
ニュース1:女優の酒井法子被告が覚醒剤の所持と使用で初公判! 厳罰も!?


 覚せい剤取締法違反(所持及び使用)の罪に問われた女優の酒井法子被告(38)の初公判が東京地裁(村山浩昭裁判官)で10月26日に行なわれれました。酒井被告は、「(間違いは)ありません」と起訴内容を認め、被告人質問では「一番身近な存在である夫からスッキリすると言われ、安易に好奇心で使ってしまった」と説明しました。検察側は懲役1年6月を求刑、弁護側は執行猶予付き判決を求め、公判は即日結審しました。判決は11月9日に言い渡される予定です。

 法廷において酒井被告は覚醒剤の所持と使用について起訴事実を認め、反省の弁を述べ、さらに、夫で自称プロサーファーの高相祐一被告(41)被告とは離婚し、生活を一新することを強調したと言います。そして、今後は「福祉、看護、介護の勉強をして、生活や仕事に自分なりに取り組みたい」と述べたと言います。なお、酒井被告は保釈直後にメンタル面の治療で入院し、10月上旬に退院したそうですが、法廷では「診断で薬物による異常や依存はないと言われました」と敢えて強調したと言います。夫である高相被告が今後についてサーフィンと音楽をやりたいと答えたのに対し、酒井被告は福祉や介護の仕事をしたいと意思を表明することで堅実さをアピールする形になりました。
 とにかく、法廷では涙をこぼす場面もあったが、終始淡々とし、想定問答を読み込んだような受け答えからは女優の一面も窺い見ることが出来るものであったそうです。しかも、迷惑をかけたはずの前所属事務所であるサンミュージックの相沢正久副社長(60)を情状証人に立たせるなど、酒井被告にとってはシナリオ通りだったのではないかとの意見も一部にはあるようです。

{各種ニュース記事を参考に編集〕

ニュース2:押尾学被告とMDMA


 東京・六本木のマンションで今年8月、合成麻薬MDMAを使用したとして麻薬取締法違反に問われた元俳優の押尾学被告(31)の初公判が10月23日に東京地裁(井口修裁判官)でありました。
 押尾被告は起訴事実を認め、現場で一緒にいて死亡した飲食店従業員の田中香織さん(享年30歳)からMDMAをもらって飲んだと述べました。検察側は押尾被告が田中さんと会う直前に送ったメールの内容から供述内容の矛盾を突き、MDMAの常習性を疑う場面もあったと言います。検察側は懲役1年6月を求刑。11月2日に判決が言い渡される予定です。

押尾被告は過去に3回、米のクラブでMDMAを使用したことを明かし、今回は死亡した田中さんからMDMAをもらって1錠飲んだと話したと言います。

 なお、押尾被告は被告人質問で、8月2日に使用したMDMAについて、「(一緒の部屋にいて死亡した)女性からもらった」と供述しましたが、検察官は、押尾被告が事件直前にこの女性に送ったメールで「(あなたが)来たらすぐい(要)る?」と尋ねていることを示し、「被告が用意したのでは」と追及したが、押尾被告は取り調べから一貫して田中さんがMDMAを持って来たという主張を曲げなかったそういです。しかし、検察側は論告で「MDMAを女性から入手したとする被告の供述は不自然。再犯の恐れは否定出来ない」と主張、一方、弁護側は最終弁論で「押収品にも違法薬物はなく、常習ではない」と述べたと言います。そして、押尾被告は最終意見陳述で「2度と同じような過ちを犯しません」と述べ、深々と頭を下げたそうです。

{各種ニュース記事を参考に編集〕

覚醒剤&大麻事件が頻発する深刻な芸能界の薬物汚染

 押尾学被告、そして、高相佑一被告とその妻である酒井法子被告と、違法薬物の使用による逮捕が立て続く芸能界ですが、参考までに、ここ数年の薬物事件を振り返ってみましょう。なお、使われた薬物は覚醒剤と大麻が主流となっています。
 なお、芸能界での禁止薬物の使用がはびこる一方で、最近では少年や主婦など芸能界以外の一般社会にも薬物使用が拡大しています。巷では「第3次覚醒剤乱用期」に突入したのではないかとの声も上がっているそうです。「1回ぐらいならよいだろう」といった軽い気持ちで誘惑に負けた結果、常習性に溺れれて人生を失ってしまうことにもなりかねません。くれぐれも気をつけなければいけません。


著名芸能人による薬物事件

●2007年
  • 歌手・高橋祐也(※女優・三田佳子の次男)
  • 歌手・桂銀淑
●2008年
  • 元俳優・加勢大周
  • 歌手&作曲家・岡村靖幸
2009年
  • 元タレント・小向美奈子
  • 元はっぴいえんど(ロックバンド)・鈴木茂
  • 俳優・中村俊太(※俳優・中村雅俊の長男)
  • 押尾学、高相佑一・酒井法子夫妻

クスリに対する芸能人の甘え

 彼らに限りませんが、芸能人は薬物に対して概して甘いようです。ちょっと捕まっても、ほとぼりが醒めればまた活動出来るとでも安易に考えているのでしょうか。しかし、法律で禁止された薬物を使用することはそんなに甘いことなのでしょうか? 彼らは薬物使用を、ちょっとしたスピード違反や駐車違反と同じぐらいにしか考えていないのかも知れません。
 とにかく、芸能人がこのように人生を甘く見て、薬物を軽い気持ちで乱用していることが世間の若者にどのような影響を与えているか、これを機に薬物使用がどれほど人生を狂わす元凶になるか、皆が考えていかなくてはいけないことと考えます。
酒井法子ショックの裏で衝撃の事実が判明!〜覚醒剤の押収量は昨年比約6.4倍に激増!〜

 警察庁の発表によれば、全国の警察が今年上半期(1〜6月)に押収した覚醒剤の量は約263キロだったそうですが、これは前年同期と比べると何と約6.4倍の激増です。上半期の押収量は04年以降減る傾向が続いていましたが、今年は6年ぶりに200キロの大台を超え、覚醒剤の蔓延が如何に深刻であるかが窺えます。こうした中、警察庁長官は8月20日、「芸能界から薬物を一掃するよう、関係者は再発防止に真剣に取り組んでもらいたい」と要請しました。警察庁長官がこうした要請を行なうのは異例中の異例の事態です。ただ、著名な芸能人が惹き起こす薬物事件は社会に与える影響が甚大で、特にここ最近は芸能人の逮捕が頻発し、青少年などへの悪影響が心配されます。「第3次覚醒剤乱用期」に突入したとも言われる現在、違法薬物には絶対に手を出さない心構えが一人ひとりに必要であるとと言えるでしょう。


■薬物種類別の押収量
薬物押収量
■覚醒剤の占有率(H20年度)
〜全薬物の検挙件数&検挙人数に占める〜
検挙件数及び検挙人数における覚醒剤の占有率


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【2】覚醒剤とは何か?〜その恐るべき実体〜

 乱用が跡を絶たない覚醒剤とは、一体どのようなクスリなのでしょうか? 
 本節では、危険な薬物のうち、特に覚醒剤の実態について、その作用と危険性などを詳しく解説しました。
薬物依存と麻薬&覚醒剤〜麻薬と覚醒剤はどう違う?〜

 本節では、覚醒剤について詳しく解説する前に、覚醒剤と麻薬とはどう違うのかなどについて、まずは基礎知識として知っておくべきことを簡単に解説しておきました。
麻薬&MDMAとは何か?

 まず麻薬とはどんな薬物なのでしょう? 詳しくは後で触れますが、ここで簡単に見ておきましょう。

 麻薬は依存性が特徴の麻酔作用を持つ植物で、麻薬取締法で取り締まり対象となっている薬物を指します。具体的にはアヘンやモルヒネ、コカインといった類です。そしてその麻薬は、(1)天然麻薬と(2)合成麻薬とに分けられますが、いま騒がれている押尾学被告が使用したとされるMDMAは後者に属する合成麻薬で、若者の間では「エクスタシー」などといった名称で呼ばれています。覚醒剤のような興奮作用とLSD(一世を風靡した強力な幻覚剤)のような幻覚作用を併せ持つのが特徴です。なお色や形は様々で、錠剤やカプセルの形で売られていることもあります。
大麻とは何か?

 大麻は麻科の1年草である大麻草を指し、形によって、(1)乾燥大麻、(2)大麻樹脂、(3)液体大麻の3つに分類されます。そして、このうち大麻の葉を乾燥させた(1)乾燥大麻は茶色か草色で、一般にマリファナとかバンクなどと呼ばれています。また、(2)大麻樹脂は深緑色の棒や板状になっており、ハシッシュと通称されています。3つ目の(3)液体大麻は深緑色または黒色で、粘りのあるタール状になっており、ハシッシュオイルと呼ばれます。
 また、大麻には麻酔作用や陶酔効果があり、その所持や栽培、譲り渡し、譲り受けは大麻取締法で禁止されています(免許取得者は除く)。しかし近年、20代の若者を中心に、好奇心から海外で使用したりした後、国内に持ち込むケースが後を絶ちません。また、暴力団関係者から買うケースもいつもながら目立ち、警察は取り締まりの徹底に躍起になっているのが現状です。
覚醒剤とは?

 では最後に、酒井法子被告が夫の高相祐一被告と共に使った覚醒剤とは一体どんな薬物なのでしょうか? また、このような違法薬物を使うと、心身にどのような影響が出るのでしょうか? 詳しくは後述するとして、ここではそれらについて簡単に説明しておくことにします。

 覚醒剤は一般的に白い粉末または無色透明の結晶の形をしています。臭いはなく、使用者の間ではシャブとかS(エス)、スピードといった通称で呼ばれています。覚醒剤には神経を興奮させる作用があって、覚醒剤を使用した場合、一時的に眠気や疲れが取れたり頭が冴えたりするような感覚を覚えます。そのせいか、巷では最近、覚醒剤汚染が急拡大しています。その証拠に、警察庁の発表によれば、全国の警察が本年上半期(1〜6月)に押収した覚醒剤の量は前年同期から約6.4倍増と飛躍的に増えています。覚醒剤の蔓延は必ずしも芸能界だけに限っているわけではないようです。
精神錯乱だけではなく、死亡例も!

 以上、麻薬、大麻、覚醒剤と3つの薬物について見てきましたが、ひと口に違法薬物と言っても、その色や形は様々です。ただ、人間の精神を異常な状態に陥れる作用については共通しています。それでは、その具体的な症状とはどのようなものでしょうか? 


麻薬(MDMA):
 強い精神的依存症があり、乱用を続けると錯乱状態に陥る。また、脳や神経系を破壊する他、腎障害や肝障害や記憶障害などが現われることもある。
大麻:
 触覚や聴覚、味覚が過敏になる他、思考が分裂し、感情が不安定になる。乱用を続けると、鳥や馬に変身する錯覚に陥るなどの症状が現われ、ついには精神錯乱状態に陥ることもある。
覚醒剤:
 使用後数時間経つと激しい脱力感や疲労感に襲われる。この不快感から逃れようと使用量が増えてゆくうちに、幻覚や妄想などの症状が現われたり、錯乱状態に陥ったりする。さらに急性中毒の場合には、意識を失って脳出血などで死亡することもある。


 以上見てきたことからも分かるように、心や体が蝕まれるのはもちろん、最悪の場合は死に至ることもある違法薬物の恐ろしさを改めて実感させられますが、薬物汚染が社会問題化する昨今、とにかく禁止薬物には「絶対に手を出さない」強い心構えが必要になります。特に大型連休などで海外旅行にゆく人は、異国情緒に浮かれて甘い誘惑に負けないようくれぐれも注意が必要です。
覚醒剤とは一体どんなクスリなのか?
覚醒剤とは何か?

覚醒剤 覚醒剤とは、その名の通り眠気を吹き飛ばし、一時的に興奮作用をもたらす薬で、。中枢神経を興奮せしめ、昂上状態におくものです。元々は漢方薬のひとつで、マオウという常緑樹の茎から搾った液が原料で、発汗や解熱、鎮咳作用のある優れた薬ですが、しかし、この薬から抽出した覚醒アミン(アンフェタミン、メタンフェタミン)という成分を乱用すると、恐ろしい覚醒剤中毒が始まります。覚醒剤の成分が中枢神経や脳を侵し、幻聴や妄想をもたらします。身体への影響は、長期服用すると、歯が抜けたり手足の震えなどが起こったりといった症状として現われますが、いったんこういった症状が出ればもう治療することもできないと言われています。使用を止め、完全に治ったと思われても、ほんの小さなことがキッカケとなって、これらの症状が再発するフラッシュバックという現象が引き起こされ、完全な中毒に嵌り込んでしまう恐ろしい薬物なのです。
 とにかく覚醒剤がもたらす精神錯乱は激しく、たとえばビルの屋上から飛び下りたり、暴力事件などを引き起こすことも度々です。覚醒剤による人格破壊は決して個人の問題で済まされるべきではなく、多くの犯罪の元凶となっている覚醒剤の恐ろしさは私たちの誰もが理解すべきことであると思います。


 覚醒剤とは、広義では脳内を刺激させる中枢神経刺激薬のことで、この中枢神経刺激薬は脳神経系に作用して心身の働きを一時的に活性化する働きを持つ広義の向精神薬の一種で、ドーパミン作動性に作用するため、その中毒症状は統合失調症に酷似しており、嗜癖・依存に誘発された精神病は重篤になりやすいと言われます。一方、狭義では日本において「覚せい剤取締法」で規制されている薬物のことを言います。

 なお、覚せい剤取締法で規制されている薬物としては、フェニルアミノプロパン(アンフェタミン)、フェニルメチルアミノプロパン(メタンフェタミン)、及びその塩類やそれらを含有するものがありますが、これらは、一般に数度の使用によって強い嗜好性を生じ、習慣性の依存状態となりやすいと言われています。日本では他の麻薬と区別され、製造はもちろん、所持・摂取も厳しく規制されている薬物です。
 なお、覚せい剤取締法の規制に含まれない中枢神経刺激薬としては、メチルフェニデートやコカイン、メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)などがありますが、これらは「麻薬及び向精神薬取締法」による規制対象となっています。特にコカインとMDMAは麻薬として強い規制が設けられています。また、メチルフェニデートは向精神薬に分類されます。なお、カフェインは作用も副作用も穏やかで普遍的に存在することもあって、一種の嗜好品として、食品としての摂取や所持に関しては規制はされていません(例:コーヒー、紅茶、緑茶など)。ただ、カフェイン単体では低致死量であるなどの理由により、精製されたその抽出物は薬事法で劇薬に指定されており、これを調剤したものは医薬品に該当します。また、中毒性の存在も知られており、カフェインも含めて禁忌する人も見られるのも事実です。
日本における覚醒剤の名称の由来とその俗称

 覚醒剤という名称は、元々は「除倦覚醒剤」などの名称で販売されていたものが略されたもので、この除倦覚醒剤という言葉は戦前戦中のヒロポンなどの雑誌広告などに見受けられます。(※なお、現在の覚醒剤として指定されている成分を含んだ薬品の健康面への問題が広く認識され、社会問題化する以前は、疲労倦怠の状態から回復させ、眠気を覚ますための薬品として一般に販売されていました。そのこともあってか、「一部には覚醒剤は大して危険な薬物ではない」といった言説が未だに世に行なわれていますが、それが芸能人などを中心に覚醒剤の使用が後を絶たない理由のひとつにもなっているものと思われます。) 


 また、日本で一般に覚醒剤と言った場合はメタンフェタミンを指すことが多く、ヒロポン(大日本住友製薬の商標で、俗に“ポン”とも)、スピード、スピードの頭文字から“エス”、シャブ、冷たいものなどとも呼ばれています。ちなみに「シャブ」の由来は、「アンプルの水溶液を振るとシャブシャブという音がしたから」という説や、英語で「削る、薄くそぐ」を意味するshaveから来たという説、また「骨までシャブる」から来たという説などがあるります。さらに、エフェドリンに類似した血管収縮作用があるため、静脈内に投与されると冷感を覚えることから「寒い、しゃぶい」からシャブという説もあるようです。また、関西の末端の密売現場では「シナモン」(品物の関西訛り)、警察などの捜査機関では、ビニールの小袋に小分けされていることから、パケットの略で「パケ」とも呼ばれています。なお、これらは一般に自嘲的な使用法、もしくは密売者が使用者を蔑視してつけた表現と考えられますが、その証拠か、中毒者は「ポン中」「シャブ中」などと呼称されています。
 ちなみに、覚醒剤の形状として、一般に臭いの無いものはカプセル状のものを除き服用した際には苦みがあるのですが、アンフェタミン類では吸入や注射もされるようです。もちろん最も危険なアンフェタミン摂取方法は注射することですが、循環器系統に直接入り込むことによる瞬時に生じる強大な快感(俗語でいうラッシュ或はフラッシュ)のため、多くの「覚醒剤剤狂」(speed freak::重度な乱用者のこと)たちの間でこの方法が特に好まれているようです。そして、瞬時に快感を生じるこの方法によって、アンフェタミンを「スピード(Speed)」と呼ぶのは誠に当を得ていると言えるように思います。

 なお、日本での覚醒剤の俗称は上で見た通り一般に日本語における俗称はシャブやエス(S)、スピード(Speed)ですが、日本以外では、たとえば英語ではIce(アイス)やMeth(メス)、Crystal meth(クリスタル・メス)、また、その他の国においては、冰毒(中国語)とかTina(フランス語)、Shaboo(イタリア語)、Tik(南アフリカ)異称、The queen of ice(氷の女王)などの俗称で呼ばれています。
参考1:中枢神経刺激薬とは?

 中枢神経刺激薬(単に中枢刺激薬とも)とは、中枢神経系に作用し、その機能を活発化させる薬物の総称で、狭義にはそれらの薬物のうち日本薬局方に収められている薬物を指しています。また、その作用から一般に「覚醒剤」と呼ばれることもあります。

 中枢神経刺激薬は狭義の覚醒剤を含み、日本ではアンフェタミンやメタンフェタミン、及びその塩類が覚せい剤取締法の対象薬物となっていますが、このうちメタンフェタミンの塩酸塩である塩酸メタンフェタミンは日本薬局方に収められており、医療的利用が認められています。医療現場においては、昏睡からの覚醒やナルコレプシーなどの重度の睡眠障害の治療に使用されることが多い。また、塩酸メチルフェニデートは欧米で注意欠陥/多動性障害(AD/HD)の治療に使用されていますが、その副作用や中毒性については更なる研究結果を待つ必要があるとされています。
 なお、治療目的以外での使用としては、一部の健康な人はこれらの薬を一種の「認識能力増強薬」つまり「脳機能の増強薬」として使用しております(そうった使用例は特に米国に多いようですが、日本の一部の芸能人による覚醒剤の使用も、上記の目的に加え、疲労回復等の目的もあって覚醒剤の利用者が後を絶たないという現状があります)。当然ながら多くの国では現状においてはこれらの使用方法は非合法とされていますが、一部の科学者はこういった使用法を合法化することを提唱している人もいるようです。
参考2:ヒロポンって何?

 戦前・戦後を扱ったドラマや小説などで「ヒロポン」という薬物の名前を目にしたことがある人が多いでしょう。これは当時薬局でも売られていたドラッグで、覚醒剤の危険性がまだ余り認識されていなかったため、世の中に広まったものです。


 メタンフェタミンはアンフェタミンの窒素原子上にメチル基が置換した構造の有機化合物で、アンフェタミンより強い中枢神経興奮作用を持つ覚醒剤です。日本では覚せい剤取締法により規制されており、医療の現場においても現在はナルコレプシー(過眠症)に対して施用されているだけです。21世紀初頭の近年、世界各国においてもその蔓延の急速な進行が確認されており、一例としてアメリカ合衆国では「最も危険なドラッグ」として語られるものともなっています。

 メタンフィミンは、日本においては当初、薬学者・長井長義により1893年にエフェドリンから合成されて生まれ、1919年に緒方章がその結晶化に成功しました。日本ではヒロポン(大日本住友製薬の登録商標、第364236号の1)という薬品名で知られています。語源は「疲労をポンと取る」という説もあるようですが、本来はギリシア語の「労働を愛する(philoponus)」という意味という説が有力です。綴りも「Philopon」です。
 日本では太平洋戦争以前より製造され、「除倦覚醒剤」として一般に販売され(剤型はアンプル及び錠剤)、その名の通り「疲労倦怠感を除き、眠気を飛ばす」という目的で、当時は軍隊及び民間で広く使用されていました。現在でこそ覚醒剤の代名詞であるヒロポンですが、当時は覚醒剤の持つ副作用についてまだ余り知られていなかったため、規制が必要であるという考え方自体が存在せず、一種の強壮剤のような形で利用されていたのです。しかし、終戦直後に軍の備蓄品が一気に市場に流入し、人々が精神を昂揚させる手軽な薬品として蔓延し、依存者が大量に発生、中毒患者が50万人を超えるなど社会問題となりました。そのため、政府は1951年に覚せい剤取締法を施行し、これに伴い、日本国内では同法により規定された研究・医療機関への販売やごく限定的な医療用途での使用といった項目を除いて、一切の使用や製造・所持が禁止されたのです。
ヒロポンの広告
ヒロポンの写真
覚醒剤の種類とその危険な使用方法

 医療向けの正規製造品として市場に出回わっているアンフェタミン系覚醒剤は膨大な数に及びますが、それらは大体3つに分けることが出来ます。すなわち、(1)アンフェタミンのグループ、(2)デキストロ・アンフェタミンのグループ、そして、(2)メタンフェタミンのグループで、化学的な構造こそ違っていても、これらの合成薬物の作用は何れも長時間に及ぶもので、コカインと同様に中枢神経に働き、人格の破壊と共に習慣性を獲得するように至る極めて危険性を孕んだ薬物です。

 また、手造品で“Street Speed”の名で知られる覚醒剤を始め多くの密造覚醒剤には、ラクトース(乳糖)やエプソムソルツ(エプソム塩と言われる嘔吐剤)、キニーネ、殺虫剤、写真の現像液、そしてストリキニーネ(毒薬)などが混ぜられていることが度々あるようです。重度の「覚醒剤狂」と言われる人々の中には、最早耐性が出来てしまっているために効き目の弱いクスリでは満足することが出来ず、こうした夾雑物が色々入っているものの方が目が眩むような(フラッシュと言うう)一段と急激なショックを伴う効き目をもたらすとして特に好む人々もいるようです。しかし、有毒な混和物は時として使用者を死に至らしめることもあり、また、人間には普通自然に備わった拒否反応(嘔吐など)があるはずなのが、これらの有毒な混和物が入っていた強烈なクスリの場合には、こういったあるべき拒否反応が機能しなくなってしまう場合もあるようです。


 なお、上でも触れたように最も危険なアンフェタミン摂取方法は注射することで、循環器系統に直接入り込むことによる瞬時に生じる強大な快感(俗語でいうラッシュ或はフラッシュ)のため、多くの「覚醒剤剤狂」(speed freak::重度な乱用者のこと)の間でこの方法が特に好まれています。そして、瞬時に快感を生じるこの方法によって即座に強烈な感覚のクライマックスと全身快感とが惹き起こされます。とにかく、アンフェタミン類はこのような方法によって即座に循環器系に吸収されてゆき、錯覚に基づく大いなる自信と意気軒高を感じさせることに始まる薬効が、やがて重力から解放されたような感じを惹き起こすと言われているのです。
覚醒剤を使用した時の症状
覚醒剤が身体面へ与える影響

 覚醒剤は、心拍数や呼吸、血圧を上昇させ、瞳孔を散大させ、食欲を減退させます。それに加えて、覚醒剤乱用者は発汗や頭痛、かすみ目、目眩、不眠、不安などを経験します。また、非常に多い分量の覚醒剤を使用すると、心拍数が急激に高まったり、拍動が不規則になったり、震えの発作や手足の筋肉の働きのアンバランスを生じたり、さらには身体的虚脱状態に陥ることもあります。またそれ以外にも、覚醒剤の注射をすると、脳溢血や非常な高熱などの他、時として心臓発作さえ誘発することがあります。また、アンフェタミン系覚醒剤を長期に渡って多量を使用していると、幻覚や妄想、パラノイア(偏執狂)などを含むアンフェタミンに起因する精神異常(サイコシス)を生じることもあります。
 なお、覚醒剤の乱用が長期化すると、当然のことながら栄養の障害などによって諸々の疾病や細菌感染などが生じやすくなります。また、注射針からの感染ではウィルス性肝炎による肝機能障害の他にも、エイズ罹患の危険性も指摘されています。さらに、水に溶けない不純物を含んだ覚醒剤を注射して、それら不純物が細い血管に詰まったり、或は血管を脆弱化させたりする原因となる他、腎臓病や肺機能障害をも惹き起こす危険性も存在しています。

 ちなみに、アンフェタミン系覚醒剤以外の乱用のパターンでは、バルビツレートの乱用が挙げられます。アンフェタミンと交互に、或はこれと組み合わせで使う場合もあります。乱用者が覚醒剤をメチャクチャに使用してすっかり目が冴えて眠れなくなった時などに自ら鎮静化させる目的でバルビツレートを使用する、といった使い方などがその一例です。この場合でも再びハイな気分を味わおうとする際にはまた覚醒剤を使うことになるので、覚醒剤と睡眠薬との交互のサイクルが作られることになります。とにかくグーフボールズ(Goofballs:goofは狂人といった語感を持つ俗語で、マンガの主人公になったこともあり、転じてLSDの絵柄になったりしています)を使用していると、それと気づかぬうちにバルビツレートの中毒になってしまうことも考えられます。そして、食欲不振は拒食症へと進行し、食物を全く受け付けなくなったり、或は体重が極端に減少し、ものを飲み込むことすら出来なくなったりするのです。
覚醒剤が精神面へ与える影響

 覚醒剤を摂取すると、無限の力を得て、何でも自分の思いのままに操れるような、とても高揚した気分になります。覚醒剤乱用者は、無限の力を得て何事も意のままに操ることが出来ると感じるのです。瞳孔は散大し、呼吸数は急激に上がり、心臓はまさに早鐘を打ち鳴らすような状態となり、粘膜は乾き切ってしまいます。こうした状況の中で何かものを言おうとしても、何を言っているのか訳も分からないような有り様になることもよくあります。また、たとえ何かひとつ夢中になるようなことがあってたとしても、それ以外のことは彼には全て度外視されてしまいます。そして、最初の目眩めくような快感は、蓄えられたエネルギーが消耗されるにつれて次第に多幸感や高揚した気分へと変わってゆきますが、とにかく精神的並びに肉体的に最早超人と化した彼には最早如何なる離れ業も可能と感じさせるのです。こうして、スピーダー(覚醒剤乱用者)は快感の敷き詰められた道路をひた走ってゆくことになります。

 覚醒剤乱用者は、このように最初はまるで超人になったような強烈なバイタリティーを感じるのですが、いったん体内エネルギーが枯渇すると、それもやがて萎んでゆきます。かくも強烈なヴァイタリティーも、薬の効果が薄れると、今度はその代わりに不安と狼狽、混乱が一気に訪れることになるのです。覚醒剤乱用者は、こうして気に訪れる不安と狼狽と混乱とに支配されてしまうことになります。スピーダーの快調な疾走もエネルギー切れを迎えると、イライラは偏執病の症状を呈し、そして極度の疲労感に襲われるようになります。頭痛や動悸、目眩、激昂、不安、そして錯乱した状態がそれまでのエクスタシーに取って代わってしまうのです。
 何れにせよ覚醒剤の乱用を続けると、当然のことながらこうした強烈な高揚感と混乱を繰り返すことになるため、猛烈な疲労感とイライラに襲われ、その結果、覚醒剤に再度手を出すことになります。そのうち慢性的な精神症状として幻覚や幻聴、幻視、幻臭など五感に異常が現われるようになり、これに続いて妄想や不安、不眠、鬱へと精神症状が移行してゆきます。また、この頃になると、覚醒剤を摂取していないにも拘わらず、その時と同様の感覚が甦ったり、或は禁断症状のように突然不安感や幻覚に襲われるようにもなります。これを一般にフラッシュバックと言い、たとえ薬物を止めた後ですら精神に異常を来す原因となってしまうのです。


 なおここで、上で触れたアンフェタミン系覚醒剤とバルビツレートとの併用による精神症状にも触れておきましょう。

 大抵の乱用者の場合、不眠は一両日ですが、重度の中毒者になると、クスリが切れていわゆる「ツブレ」の状態になる前の「走っている」間(=クスリが効いてギラギラした状態)は長い時には数日から数週間に及ぶこともあります。そして、幻覚や誤解などの他、不眠に伴って身体機能の不調も生じ、しかも、これらの症状はクスリを中断しても持続します。
 妄想の世界にどんどん嵌り込んでゆきつつあることは、乱用者自身も意識の中では気付いているものの、かつては現実が満たしていた彼の心の真空を今や不安と猜疑心だけが充満してゆく様子をただじっと見つめる以外に為す術がありません。覚醒剤を多量に使用する者にあっては、被害妄想の感情に左右される偏執病をやがては経験することになります。そして、偏執狂的症状や異常に亢進した活動性、感情的起伏の極端な変化などは、必然的に生じる生活スタイルの変化と相俟って強姦や殺人などの暴力的行動へと駆り立てることにもなります。要するに、上でも触れたアンフェタミン系覚醒剤とバルビツレートとの併用は、覚醒剤狂に対して単にダウナー(バルビツレートの俗称)が狂悪性の誘因となるのみならず、アッパー(覚醒剤の俗称)がその凶悪性を実行させる起爆剤としても働くのです。
参考:覚醒剤の恐怖〜元常用者の体験談に耳を傾けてみると・・・〜

 現在ニュースで盛んに騒がれている一部の芸能人に限らず、巷では覚醒剤の蔓延が深刻化しているというのが現状です。一時の誘惑に負けて興味本位で手を出すと、人生を大きく踏み外すことにもなりかねません。たとえばある女性の場合、28歳の時に友人に誘われて覚醒剤を使用した結果、覚醒剤がないとイライラするようになり、薬を手に入れるために水商売で働くようになりました。彼女はその後、覚せい剤取締法違反容疑で逮捕されて刑務所へゆくことになりましたが、出所後に再び覚醒剤に手を出してしまい、最後は自殺まで図りました。一命を取り留めたこの女性が言うには、「いつでもクスリを止められると過信していたが、止められなかった」そうです。薬物依存の恐ろしさをまざまざと実感させられる話ですが、酒井容疑者にしても当初は今日のような悲惨な事態を招くとは想定だにしていなかったはずです。私達もくれぐれも注意しなければなりません。

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【3】麻薬をめぐる文化と現代世界〜覚醒剤だけではない!危険なクスリの実態〜

 危険な薬物は何も覚醒剤だけに限りません。
 本節では、麻薬として代表的な薬物について詳しく解説し、参考までに併せて麻薬をめぐる人類の文化や現代世界との根強い関わりについて解説しました。
人間やめますか?〜危険なクスリの人体への影響〜

 麻薬は依存性が特徴の麻酔作用を持つ植物で、麻薬取締法で取り締まり対象となっている薬物を指し、具体的にはアヘンやモルヒネ、コカインが代表的な麻薬とされています。
 その詳細については下で詳しく触れますが、麻薬は種類により症状は様々で、たとえばコカインやヘロイン、覚醒剤などは薬物依存症に陥りやすく、また依存症状も深刻になりやすいと言われています。また、コカインや覚醒剤では長期の薬物使用による幻覚状態や譫妄、錯乱状態に陥り、暴力や殺人などの犯罪を引き起こすことも珍しくなく、また、薬物を購入するための資金を得るために強盗などの犯罪の常習者になることもよくある話です。依存症に陥ったり、犯罪を犯すこと、逮捕されることで精神的にも社会的にもダメージを受け、人間関係が破壊されることで、自殺までに至る事例も決して少なくないのです。


■危険なクスリと人体への影響
危険な薬と人体への影響

代表的な禁止薬物(1) 大麻
大麻とは? 

 大麻とはクワ科の一年草で中央アジア原産の植物で、古代から繊維用として栽培されて来ました。この植物にはTHCという成分が含まれており、葉などを焙ってその煙りを吸うと酩酊感や陶酔感、幻覚作用などがもたらされます。現在では世界の殆どで麻薬として規制され、所持しているだけでも死刑や無期懲役となる場合もあるほどです。

麻の葉 大麻(たいま)ないしマリファナは、麻の花・茎・葉を乾燥させて細かく切り刻み、調理または燃やすなどして発生した煙を吸引して使用する薬理作用のある植物で、嗜好品や医療薬として用いられています。また、マリフアナはメキシコ・スペイン語で「安い煙草」を意味していますが、これは大麻の繁殖力が強く、野草として自生していたために安価に手に入ったことから、メキシコでこの呼称が一般的になり、これがアメリカへと伝わって世界中に「マリファナ」という呼称が定着しました。日本ではさらに使用者の間では草や葉っぱ、緑、ガンジャとも言います。なお、日本において衣類や紐、縄、神道における神社の注連縄、相撲の化粧まわしなどとして歴史的に使われてきた繊維としての大麻は「アサ」、一方、医療薬として用いられる大麻は「医療大麻」として区別されます。
 なお、大麻は薬理作用のある植物で、日本では大麻取締法による規制を受ける麻薬の一種に分類されており、無許可所持は最高刑が懲役5年、営利目的の栽培は最高刑が懲役10年の犯罪とされます。また、イギリスの薬物乱用防止法では薬物の危険度順(ABC)に分類され、09年1月よりクラスCから再度格上げされて、大麻は現在クラスBに分類されています。一方オランダのあへん法においては大麻はソフトドラッグの区分に分類されています。なお、世界ドーピング防止規程においては興奮剤やヘロイン等の麻薬と共に大麻の主成分であるカンナビノイドをスポーツ競技会における禁止薬物としており、アルコールと共にカンナビノイドが特定物質とされています。
大麻の作用

 アサの葉及び花冠に含まれるテトラヒドロカンナビノール (THC) や他の物質はカンナビノイド受容体に作用し陶酔作用を引き起こしますが、その効果はアサの成分は品種によって大きく異なり、THC以外に含まれる成分のバランスによって効果に違いが生じます。特にラマルクにより命名された亜種のインドアサは00年以上前から中央アジアで品種改良され、一般的な大麻より多くの陶酔成分を含むため、一般に嗜好品としての大麻と言えばこのインド麻を指しています。また、インドやジャマイカなどではガンジャ(神の草の意)とも呼ばれていて、これらの国においては、嗜好品としてだけでなく日常的な労働の中でも用いられています。ただし、大麻を含め麻薬は当地でも違法で、厳重に処罰されます。そのため、特に最近インドでは大麻やハシシの所持や密輸未遂などで逮捕される日本人が増加しています。
 一方、産業用のアサは、陶酔成分が生成されないよう改良された品種が用いられます。また、品種が同じでも、産業用と嗜好用とでは栽培方式が異なります。前者は縦に伸ばすために密集して露地に植えられる方式が主ですが、後者は枝を横に伸ばすために室内栽培が多く、そのため、嗜好目的のためのアサを産業的栽培だと偽って栽培するのは困難です。また、大麻成分の研究が目的の場合、合成のカンナビノイドが使用されるため栽培はされません。
嗜好品としての大麻の種類


■嗜好品としての大麻の種類
 嗜好品としての大麻は以下の3種類に分類されます。
乾燥大麻(マリファナ):
 花穂や葉を乾燥させた大麻加工品を乾燥大麻と言い、さらに大麻の葉をリーフ、花穂をバッズ、無受精の雌花の花穂をシンセミア(種無し)と言います。乾燥大麻は嗜好品としての大麻の最も一般的な加工方法で、世界で押収された大麻のうち79%が乾燥大麻であるとされます。なお、バッズのTHC及びカンナビジオール含有率は他の部位に比べて高く、シンセミアにおける含有率はさらに高いと言われ、市場で流通する乾燥大麻のTHC含有率は大麻の品種改良や栽培技法の確立により年々上昇しています。さらに、良質のシンセミアを確実に得たいという思う愛好者の要望に応じるため、栽培業者は巧妙な交配を行なって雌株の発芽率を高めた種子を販売していますが、このような種子をフェミナイズド・シードと言い、種子製造メーカーによっては雌株発芽率が100%だと標榜している品もあるそうです。
大麻樹脂(ハシシ):
 花穂や葉から取れる樹液を圧縮して固形状の樹脂にした大麻加工品を大麻樹脂と言い、一般にハッシッシないしハシシ、ハシシュ、チョコ、チャラスとも呼ばれます。ハシシの製法は大きく分けて、手揉み(チャラス)、ポリネーター(ポーリン)、アイソレーターがあります。世界における消費地は主に西ヨーロッパで、世界における大麻樹脂の74%はここで押収されていると言われます。また、モロッコが大麻樹脂の最大生産国であると言われます。
液体大麻(ハシシオイル):
 乾燥大麻や樹脂を溶剤で溶かして抽出した大麻加工品を液体大麻と言い、一般にハシシオイルないしハッシュオイル、ハニーオイルとも呼ばれます。溶剤にはアルコールや油、石油エーテル、ブタンなどが用いられます。THCを抽出するためTHC含有率が高く、溶剤にもよりますが、50%を超える場合もあります。日本の行政は一般に「液体大麻」と呼称していますが、形状は溶剤により様々あります。

医療用の大麻

 医療大麻または医療マリファナは、大麻(マリファナ)や合成THC、カンナビノイドを利用した生薬療法のことを言います。現在アメリカ合衆国の一部の地域とカナダ、イスラエル、ベルギー、オーストリア、オランダ、イギリス、スペイン、フィンランドなどで使われています。大抵の場合、大麻の使用には処方箋が必要になり、地域法によって販売(配給)の方法が異なるのが特徴です。たとえば合成大麻成分のドロナビノール(合成テトラヒドロカンナビノール:THC)はアメリカ合衆国でマリノールという商品名で販売され、一般に末期エイズ患者の食欲増進やガンの化学療法に伴う吐き気の緩和のために処方されています。また、ドロナビノールはドイツにて、抽出大麻成分を含有するサティベックスはカナダにて処方されています。
 なお、大麻の医療活用については多くの研究がなされ、現在も研究が進められていますが、日本においては大麻草は大麻取締法の規制により、大麻の化学成分(THC、CBDなど)は麻薬及び向精神薬取締法の規制によって、たとえ医療目的であっても使用・輸入並びに所持は禁止されています。
大麻の危険性

 医療用の大麻にせよ何にせよ、どんな形のものであってもよ、当然ながら大麻は心身に有害です。ここで、通常認められる身体症状の幾つかを挙げてみると、心拍数を上昇させ、目を充血させ、口や喉の渇きを感じさせ、食欲を増進させるなどが挙げられます。また、大麻の乱用によって気管支や喉を痛める他、免疫力の低下や白血球の減少などの深刻な症状が現われることも報告されています。
 大麻(カンナビス)を使用すると、短時間の記憶力や理解力が低下したり時間感覚に変調を来したり、或は車の運転などのように身体各器官の調整や神経の集中を要求するような仕事を行なう能力が低下します(※たとえばある研究結果によると、学生が大麻等で「ハイな状態=恍惚状態」になっている時には知識を記憶出来ていなかったそうです)。また、動因(※モチベーション:心理学用語で、欲求の満足や目標の達成に向けられる行動を抑制する力の総称)や認識に異常を来たし、新たな知識の吸収を困難にします。さらに、大麻も偏執病等の精神病を惹き起こすことがあります。大麻乱用者は、「大麻精神病」と呼ばれる独特の妄想や異常行動、思考力低下などを惹き起こして普通の社会生活を送れなくなるだけでなく、それが犯罪の原因となる場合もあります。さらに、乱用を止めてもフラッシュバックという後遺症が長期に渡って残るため、軽い気持ちで始めたつもりが一生の問題となってしまう危険性もあるので、大麻は社会問題の元凶ともなる危険な薬物のひとつであるわけです。


 大麻乱用者は再三に渡って濾過していない大麻の煙を吸い込み、そのうえ出来る限り我慢して息を止めておくので(こうすることで大麻成分をなるべく多く肺から吸収しようとする)、肺などの呼吸器官に障害をもたらすことにもなります(なお、大麻の煙の中には発癌性物質が普通のタバコよりも多く含まれています)。また、大麻を長期間乱用していると、精神的な依存が出来上がり、同程度の効果を得るためにより多くの大麻を必要とする状態になってしまいます。こうして、この薬物が彼らの生活の中心を占めるようになるのです。
 さらに、大麻の煙に直接接触している部位以外の場所にも様々な危険が存在しています。心拍数は50%も増加し、これが原因となって脳細胞相互の伝達に重要な役割を持つ小さな髪の毛状に長く伸びた脳細胞の細胞膜を傷つけるため、脳障害が発生したりします。さらに有毒成分はその他の脳細胞にも蓄積され、長期間の乱用では再生不良性の脳障害を生じることもあります。また、免疫性も著しく低下します。そればかりではなく、人格や性格の変化も見られ、特に重度の乱用者にあっては偏執病的思考を来し、労働の生産性や学業の成績、運転能力は何れも低下してゆきます。

 なお、マリファナは生殖能力にも障害を生じさせるので、遺伝子の異常や突然変異をもたらすことがあり、男性ではテストステロン(性ホルモン)を44%も低下させ、女性では生殖細胞に異常を生じさせます。また、大麻の有害成分は胎盤関門(※母胎血液と胎児血液の間に胎盤膜によって形成されている半透過関門)をも通過して胎児にも影響を及ぼすため、胎児の大麻中毒や流産うあ死産の原因にもなります。大麻成分の全て解明されるまでは、このように大麻の持つ危険性そのものもまだまだ測り知れないものがあるのです。
代表的な禁止薬物(2) MDMA
MDMAとは?

MDMA MDMA(メチレンジオキシメタンフェタミン)はいわゆる合成麻薬の一種で、正式名を3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン (3,4-methylenedioxymethamphetamine) と言い、略称としてMDMA、他にエクスタシー(EcstasyまたはXTC)という通称を持っていることで知られています。なおエクスタシーは錠剤型麻薬の通称としても使われています。ちなみに、心理学者のラルフ・メッツナーがMDMAに対してエンパソーゲン(empathogen=共感をもたらす)という言葉を作り、また、エンタクトゲン(entactogen=内面のつながりをもたらす)と呼ばれて分類されています。なお、類似の薬物として MDA(3,4-メチレンジオキシアンフェタミン)やMDEA(3,4-メチレンジオキシ-N-エチルアンフェタミン)なども知られ、MDMA と同様にエンパソーゲンないしエンタクトゲンへ分類されます。常温では白色の結晶または粉末で、分子構造はメタンフェタミンに類似しており、メタンフェタミンのフェニル基の一部を置換したものと同一です。このため、MDMAもメタンフェタミンと同じく光学異性体を持っています。
 なお、MDMAはその分子構造から屡々覚醒剤に分類されますが、他の覚醒剤とされる薬物とは主だった作用機序が異なっています。また、特有の精神作用により幻覚剤にも分類されますが、しかし、この幻覚は「多幸感」や「他者との共有感」などといった幻覚体験を指すもので、主な作用として幻視や幻聴(一般に言う幻覚)を伴うことは稀だと言われています。
MDMAの作用

 MDMAは脳内のセロトニン等を過剰に放出させることで人間の精神に多幸感や他者との共有感などの変化をもたらすとされています。MDMAを経口的に摂取すると、30分から1時間ほどで前述のような精神変容が起こり、それが4〜6時間ほど持続すると言われています。
 その反面、MDMAを摂取すると、体温をコントロールする機能の喪失による高体温や不整脈などによって重篤な症状を引き起こす場合があります。特に暖かい換気の悪い室内や激しい運動を伴う場合、また、大量の発汗を伴って水分補給が充分でない場合などに使用すると、合併症を生じやすいとされています。また、低ナトリウム血症や急性腎不全、横紋筋融解症などで死亡することもあるようです。また、摂取後に重度の不安(不安障害)や妄想、気分の障害、記憶障害、睡眠障害、衝動性の亢進、注意集中の困難などが長期間続くことがあると言われます。さらに、MDMAは記憶系統の混乱を発生させる要因を作り出しますが、その副作用として神経細胞の破壊及び永続的(数ヶ月〜数年とも言われる)な後遺症をもたらすと言われます。なお、特に混合成分(合成麻薬と言われる由縁)のうち覚醒剤や亜覚醒剤と併用された場合には、複雑な精神面・身体面における副作用を生み、たとえば神経ニューロンが破壊されると一時的に記憶を伝達する能力が失われて、前述の様な多様な記憶障害を惹き起こすことになります。

 ちなみに、イギリスで行なわれたレイブパーティー等で死亡者が続出したことらも分かるように、運動を行なう直前などにMDMAの多量の摂取を強要したような場合においては、使用・所持・譲渡ばかりでなく、最悪の場合には殺人罪及び殺人未遂(使用者が死亡した場合)に問われるケースもあり得るので、くれぐれも注意が必要です。
医療用途と乱用の問題

 MDMAは85年まで主にアメリカにおいて心的外傷後ストレス障害 (PTSD) の治療に用いられて来ました。PTSDは患者が自身に起きたトラウマ体験を自己の記憶として受容出来ないことによる疾患だとされていますが、これは、MDMAを摂取した状態でカウンセリングを行なうことで通常の精神状態では許容しがたいトラウマ体験を想起させ、自己に起きた事実であることを受け入れることで疾患が軽減もしくは治癒する、という理論に基づいたものです。
 しかしながら、その反面でMDMAはレクリエーション・ドラッグとしての側面も持っており、濫用が社会問題化したことを受けて、米国司法省麻薬取締局はMDMAを「濫用性が高く医療用途の見込みのない違法薬物」に指定しました。現在では殆どの国でMDMAは違法薬物とされています。
錠剤型麻薬

 錠剤型のMDMAである「エクスタシー」は、元々はMDMAを指す隠語でしたが、MDMAは錠剤の形を取って流通する場合が多いため、単に(MDMAを含むと期待される)錠剤型麻薬を総じて「エクスタシー」と呼ばれることも多くあります。なお、錠剤型麻薬としては他にも「X」や「E」「アダム」など多数の俗称を持ち、また日本では、丸い錠剤が多いことから「玉(たま)」、さらに「X」から転じて「バツ」とか「ペケ」といった俗称も持っています。
 なお、一般に錠剤型麻薬は違法に製造されるため、MDMA以外の薬物である可能性や他の成分が混入されている可能性、或は有害な不純物が残留している可能性なども非常に高く、また、MDMAの効用を高めるために意図的に他の薬物を混入することも少なくないと言われます。従って、単体としてのMDMAの安全性と錠剤型麻薬の安全性は別個のものとして考えなければなりません。とにかく、近年は錠剤型麻薬の押収量が増加して、世界中で深刻な社会問題となっています。
参考:MDMAの日本国内での規制

 MDMAは、日本では麻薬及び向精神薬取締法によって規制されています。
 MDMAの輸入・輸出・製造は1年以上10年以下の懲役。譲受け・譲渡し・所持は7年以下の懲役。施用(経口摂取など身体に用いること)は7年以下の懲役と定められています(※最近では今年の年8月に起きた元俳優の押尾学被告の事件が有名)。 なお、錠剤型麻薬が覚醒剤(アンフェタミンなど)を含んでいた場合は、覚せい剤取締法により譲受け・譲渡し・所持・使用は10年以下の懲役となります。
代表的な禁止薬物(3) コカイン
コカインとは?

コカイン コカインは、南米が原産地のコカノキという灌木の葉が原料で、古代から貨幣と同様に扱われる貴重な植物でした。後にヨーロッパでコカの葉から独自のアルカロイド成分であるコカインが分離され、麻酔薬として使われるようになりました。トロパン骨格を持ち、オルニチンより生合成される無色無臭の柱状結晶です。

 コカインはごく少量でも生命に危険な薬物です。主に鼻の粘膜から吸いこんで摂取するために鼻が炎症を起こし、肺も侵されます。この麻薬の最も特徴的な中毒症状には、皮膚と筋肉の間に虫が這い回わるような感覚が起こる「皮膚寄生虫妄想」というものがあります。また、脳への影響も大きく、最後は痴呆状態となって人間として生きることそのものを放棄することになります。これらの他にも、妊娠中のコカイン摂取が子どもに及ぼす影響(コカインベービー)も重要な問題になっています。
 とにかく、コカインはアメリカやヨーロッパの各国で麻薬として所持や使用が規制されている薬物のひとつで、日本でも麻薬及び向精神薬取締法で規制対象になっています。そして、コカインの恐ろしさは、どんな人も決してやめられないことにあります。ゆっくりとした死への道筋を辿らせるコカインについてしっかりと認識してゆきたいものです。
コカインの作用

 コカインは粘膜の麻酔に効力があり、医療目的で局所麻酔薬として用いられて来ました。この作用は、電位依存性ナトリウムイオンチャネルの興奮を抑えることで感覚神経の興奮を抑制することによります。また、中枢神経に作用して、精神を高揚させる働きを持っています。
 コカインを摂取した場合、中枢神経興奮作用によって快感を得て、とても爽快な気分になることが出来ると言われます。また、コカインは薬物依存症の原因になります。そして、コカインによる依存症は極めて強い部類に含まれますが、主にそれは精神依存で、肉体依存は弱いと言われています。なお、このコカインの中枢作用は覚醒剤(アンフェタミン類)と類似しており、モノアミントランスポーターの阻害によりカテコールアミンを遊離させ、脳のカテコールアミン作動神経に作用するためだと考えられています。ただし、コカインは作用が強烈で短時間作用し、一方の覚醒剤の作用はコカインより弱いが長時間作用するというのが特徴です。なお、コカイン中毒では対症療法により対処します。
参考:かつては有名飲料にもコカインが入っていた!?

 コカインの性質が充分に認識されていなかった頃には、依存性がないと考えられたため、、他の薬物依存症の患者に対しコカインを処方することで治療出来ると考える者もおり、たとえば著名な精神分析学者であったフロイトも、このような考えから自身及び他者に対してコカインを処方し、重大な依存症を惹き起こしたことももあるそうです。また、コナン・ドイル原作の名探偵シャーロック・ホームズも作中でコカインを使用しており、助手のワトソンの協力によって依存から脱出しているといったシーンもあります。
 また、清涼飲料として知られるC飲料にも20世紀初頭まではコカインの成分が含まれており、薬局などで売られていた頃はdope(ドープ)という麻薬の俗称で呼ばれていたのです。しかし、後にコカインの有害性が明らかになると、1903年にC飲料はコカインの使用を中止し、代わりにカフェインが用いられるようになりました。なおその一方で、09年には世界中でエナジードリンクとして販売されているR社の清涼飲料から微量のコカインが検出され、ドイツでは販売が禁止されたという事件も報じられています。

 しかし、規制後もコカインは裏で流通し続けており、たとえばアメリカではベトナム戦争時にアメリカ軍兵士が日常的にコカインを摂取しており、帰還兵がアメリカ国内にそれを持ち込み、深刻な社会問題になりました。そして、70年代前後のアメリカでは、コカイン摂取はベトナム帰還兵や裕福な白人層の「娯楽」として用いられるようになったのです。特にシリコンバレーを代表とするハイテク関連企業の技術者やその家族がコカインを屡々用いていたとされます。その後80年代に入ってコカインの供給量が増え、その路上販売価格が下がると、コカインの摂取は貧しい人々や若者にも広がるようになり、深刻な社会問題として表面化しているのが実情です。なお、70〜80年代にかけてパブロ・エスコバル率いるコロンビアの複合犯罪組織メデジン・カルテルの台頭が全世界のコカイン市場の大半を牛耳るようになると、危機感を抱いたアメリカは、これを壊滅させるべく国家安全保障局(NSA)や中央情報局(CIA)による諜報活動の上でアメリカ軍を派兵、連日に渡る拠点の空爆やミサイル攻撃、銃撃戦を繰り広げ、その様子は各国のTVや新聞等のメディアで度々報じられたのでご存知の方もいるかも知れません。
代表的な禁止薬物(4) ヘロイン
ヘロインとは?

ヘロイン ヘロイン(正式には3,6-ジアセチルモルヒネ)は、ケシから採れるアヘンを精製したもので、塩酸モルヒネを無水酢酸で処理し生成します。ヘロインは、そのアヘンに含まれるモルヒネから作られる依存性の極めて強い麻薬で、麻薬及び向精神薬取締法で当然ながらその製造・所持・医療目的を含め規制対象になっています。そんなヘロインも本来は強い鎮痛効果のある薬品であるモルヒネの原料なのですが、如何せん習慣性と中毒性が非常に高いため、一度使い始めたら誰もが中毒から逃れることは出来ず、その乱用は留まるところを知らないと言われます。このように、とにかくヘロインは現存するあらゆる薬物の中で“快”の面でも“悪”の面でも最も高峰に位置するものとして、「薬物の女王」の代名詞すら持っている麻薬なのです。事実、戦後日本においてコカインの知名度が上がった80年代までは覚醒剤と並んで麻薬の代名詞で、たとえば「太陽にほえろ!」や「西部警察」などといった刑事ドラマにおいて密輸品として屡々登場した他、中毒患者が犯人として登場することも多くありました。ちなみにドラマ「西部警察」において、薬そのものは「ぺー」、中毒患者は「ペーチュウ」と呼称されていました。
 とにかく、ヘロインの恐ろしさは、どんな人も決して止められない(離脱出来ない)ことにあります。ゆっくりとした死への道筋を辿らせるヘロインについて、私たちもここでしっかりと確認しておきたいものです。
快感と禁断症状〜ヘロインの作用とその強烈な禁断症状〜


快感
 多くの経験者の多くがまずもって挙げるのが、「この上ない」と言われる多幸感です。静脈注射によるその摂取その使用法は主に鼻からの摂取や経口摂取、そして静脈への注射という3種に上がりますが、様々な点において、これらの中でも特に重視されるのが静脈への注射による摂取です。そして、この静脈注射によって摂取した直後から数分間に渡って続く「ラッシュ」と呼ばれる強烈な快感は他の何物にも代え難いものと言われ、時には「オーガズムの数万倍の快感を伴う射精を全身の隅々の細胞で行なっているようだ」とか、或は「人間の経験しうるあらゆる状態の中で他の如何なるものをもってしても得られない最高の状態」などと表現されるほどのものだそうで、このように、通常の人間が一生のうちに体感し得る全ての「快感」の合計を上回わる快感を瞬時に得ることに等しいと云われるその快楽度の強さ、そして、そこから生ずる至福感は屡々「約束された安堵」などと表現されて来ました。
禁断症状
 ヘロインは最も激しい禁断症状を持つ麻薬のひとつです。それは、ヘロインには精神的な依存だけでなく身体的な依存が形成されるからです。薬が切れると、全身がバラバラになるかと思われるような痛みが襲い、それ故に断症状がひどくなると、痛みや悪寒に耐え兼ねて自分で自分の身体を傷つけたり、或は暴れ回わり、最後には精神に異常を来しすと言われています。まさに人格そのものを破壊する麻薬、それがヘロインなのです。


 ヘロインはその使用者に対して肉体面での依存症と精神面での依存症の両方を形成します。その肉体面における依存、いわゆる禁断症状として、身体中の関節に走る激痛や、小風に撫でられただけで素肌に走る激痛、体温の調節機能に生じる狂いによる激暑と激寒の数秒毎の循環、そして、身体中に湧き上がる強烈な不快感と倦怠感などが挙げられています。(なお、これらの症状に対してはメサドンの定期的投与が有効で、メサドンを投与すると、その禁断症状は短時間で止まり、その効果中はヘロインが投与されても麻薬作用は抑制されると言います。) 
 ちなみに、こうした一連の症状は「他の何でもない地獄そのもの」などと表現されるほど苛烈なもので、この禁断症状を指して言う「コールド・ターキー」というスラングが生まれたほどです。これは69年に歌手のジョン・レノン(プラスティック・オノ・バンド)が発表した楽曲 Cold Turkey(邦題:『冷たい七面鳥』)によって世界的に有名になりました。ジョン・レノンはこの曲を通して薬物の禁断症状の恐ろしさを世に知らしめようとしたつもりだったのですが、ドラッグ・ソングと誤解を受けて放送禁止にした放送局もあったと言います。

 なお、ヘロインはまずロンドン・セントメアリー病院医学校のアルダー・ライト) によって1874年に調合され、ドイツのバイエル社により鎮咳薬として1898年に発売されました。当初は経口投与が一般的で、モルヒネよりも依存性は低いと考えられていましたが、注射器による投与が広まると、成分がモルヒネよりも多く脳に取り込まれ、強烈な麻薬作用を惹き起こすことが判明し、各国において相次いで厳しく規制されることになりました。なお、ヘロインの摂取には主に注射器を用いるため、現在ではエイズ蔓延の大きな要因ともなっています。
麻薬をめぐる人類の文化
医療と麻薬

 麻薬(アヘン剤)は通常痛みに対する感覚を鈍らせる効用があるため、医療現場ではモルヒネやコデインは鎮痛剤として処方されています。また、麻薬性鎮痛剤として、たとえばモルヒネのような効果を持つメペリジン(商標名:デメロール)やメタドンが開発されています(※なお、メタドンはヘロイン中毒の治療にも利用されますが、メタドン自体に依存性があるため、この薬の使用には賛否両論があります)。薬剤の研究者は、これらの鎮痛薬の依存性を中和する方法を探る過程で麻薬に反応する脳内の受容体(オピオイド受容体)を発見しました。そんな中で、脳内麻薬などと呼ばれることもあるエンドルフィンは人体に存在する天然の鎮痛物質ですが、麻薬はエンドルフィンと同様の働きをし、オピオイド受容体と結合することが明らかになって来ました。また、麻薬のアンタゴニストとして作用する薬物は麻薬の作用を阻害し、乱用や過剰摂取の症状を逆転させますが、こうしてアヘン剤とオピオイド受容体のアンタゴニストを組み合わせることにより、副作用の無い新しいタイプの鎮痛剤が作られるに至ったのです。
宗教と麻薬

 古来から特殊な宗教的体験を得るために様々な呪術・宗教的儀式においていわゆる麻薬が用いられて来ました。その証拠に、現在でも幻覚性植物を聖なる植物とし、信仰の対象にしている宗教があります。たとえば米国におけるネイティブアメリカンチャーチのペヨーテ(幻覚性サボテン)やブラジルのアヤワスカを使うカトリック系教会、ジャマイカのラスタファリズムにおける大麻、西アフリカのガボンにおけるブウィティ教、また、瞑想のために大麻樹脂を吸うシバ派のヒンドゥー教修行者などが具体例として挙げられます。そして、宗教儀式における幻覚性植物の使用は、コミュニティ内の連帯を高める役割も果たしています。ちなみにアメリカ合衆国最高裁判所は、宗教上の使用に限り規制薬物の認める判決を06年に出しています。
シャーマニズム

 宗教と麻薬との繋がりとも関連しますが、人類と向精神性作用のある植物との関係は遥か昔まで遡ることが出来ます。
 世界各地に見られるシャーマニズムの儀式では、夜間に少人数で集まり、灯りを消した小屋の中や野外で焚き火を囲んで幻覚性植物を摂取します。そして、シャーマンは歌を歌い、祈りを捧げたりドラムを叩いたりしながら、病気の治療をしたり、神や精霊と交信し、重要な決定をしたり予言をしたりするのです。なお、中世ヨーロッパや古代インドでは、せん妄性の植物であるベラドンナやダチュラが儀式的に使用されていました。また、現代でも用いられている幻覚性植物としては、たとえばメキシコのマサテク族のマジックマッシュルームやネイティブアメリカンのペヨーテ、アンデス地方のサンペドロ・サボテン、アマゾンのアヤワスカや西アフリカのイボガ(イボガイン)、シベリアのベニテングタケなどがあります。
少数民族

 コロンビアやペルー、ボリビアに住む先住民インディオや労働者は、コカインの原料であるコカの葉を興奮剤として日常的に噛んだりお茶にして飲んでいます。また、東南アジアや東アフリカ、中東においても、興奮作用のある植物を嗜好品として摂取する習慣があります。そのため、ケシ栽培をするタイ北部やラオスに住む少数民族の中にはアヘン中毒に陥っている者も少なくないのが実情です。
ヒッピームーブメントとLSD

 従来の伝統・制度などの既成の価値観に縛られた社会生活を否定することを信条とし、また、自然への回帰を提唱する人々を総称をして一般にヒッピーと言いますが、。これは特に60年代後半に主にアメリカの若者たちの間で生まれたムーブメントで、後に世界中に広まりました。彼らはみな自然と愛と平和と芸術と自由を愛する人々で、日本においてはオリジナルのヒッピーという言葉の他にフーテンと呼ばれる日本独特のスタイルのヒッピーも発生しました。ヒッピームーブメントは音楽や文学、映像、絵画、ファッションなどに大きな影響を与え、ベトナム戦争の反戦運動や精神世界、東洋哲学、エコロジーなどへの関心を集めました。その中心人物としては、たとえば元ハーバード大学教授のティモシー・リアリーや『カッコーの巣の上で』を書いたケン・キージーなどの名前を挙げることが出来ます。

ヒッピームーブメント ヒッピームーブメントは、大まかに、(1)第1世代(1960〜 70年代前半)と、(2)第2世代(1990年代前半〜 現在)とに分けることが出来ますが、特にここで取り上げる世代は(1)の第1世代のヒッピームーブメントです。このヒッピームーブメントの第1世代は、「正義無きベトナム戦争」への反戦運動を発端とし、愛と平和を訴え、徴兵や派兵に反発した若者たちがヒッピーの中心であった時代を言います。戦争に反対し、徴兵を拒否し、自然と平和と歌を愛し、人間として自由に生きるというスタイルで、ベトナム戦争当時、全米で一大ムーブメントとなりした。初期は薬物による高揚や覚醒やインスタントな悟りを求めることから出発し、各地にコミューンと呼ばれるヒッピー共同体が発生しました。そして、若者を中心に爆発的な人気を誇ったロックバンド・ビートルズによるインド巡礼や、或はマリファナやLSDを使用した精神開放等によって、全米から世界へとそのムーブメントは広まってゆくことになります。当然ながら彼らは伝統的な社会や制度を否定し、個人の魂の解放を訴えました。そして、伝統的キリスト教的価値観を否定し、欧米においては禅などに代表される東洋の思想・宗教が広く紹介され、その系統を引くカルト宗教も多数創設されて社会問題化もしました。なお、ヒッピーの中には文明を拒否し、自然に回帰する者も現われましたが(そのモットーは“Back to nature――自然に帰れ”でした)、現在の自然保護活動家の中にはこの系統を引く者も少なくありません。しかしながら、ベトナム戦争の終結と薬物に対する取り締まりの強化によって、さしものムーブメントも70年代前半頃から次第に衰えてゆくことになりました。
 かつて一世を風靡した非常に強烈な作用を有する半合成の幻覚剤であるLSDは、60年代後半に欧米を中心に爆発的に広まり、ヒッピームーブメントと相俟って若者たちの間に爆発的な流行を生みました。そして、LSDがまだ業報ドラッグだったこともあって、かつてはヒッピーと言えばLSDが連想されるような時代もあったのです。要するに、LSDも開発当初は精神療法にも実験的に活用されていた強力な幻覚剤で、それが一般に市販されたことがヒッピームーブメントを後押ししたわけですが、その危険性が認識されるに従って、LSDは禁止薬物として規制されるようになってゆきます。そして、そのような当局による既成が強まってゆくに従って、上で書いたように第1世代のヒッピームーブメントは檜舞台から退いてゆくことになったわけです。
参考:宗教はアヘン!?

 誰でも一度は聞いたことがあると思いますが、マルクスの言葉とし《宗教はアヘンである》という非常に有名な言葉があります。

 この言葉の出典はカール・マルクスの『ヘーゲル法哲学批判序説』で、そこには、《宗教は逆境に悩める者の嘆息であり、また、それが魂なき状態の心情であると等しく、無情の世界の感情である。つまり、それは民衆のアヘンである》とあるのですが、この比喩は詩人ノヴァーリスの断片集『花粉』(1798年)の中の《いわゆる宗教は阿片のような働きをするだけだ。つまり興奮させ、麻痺させ、弱さに由来する苦しみを和らげる。》という言葉に基づいていると言われます。そして、他に『ヘーゲル法哲学批判序論』ではアヘンを痛み止めとする旨の記述もあることからも分かるように、ここで言われているアヘンは、当時の緩和医療で疼痛への痛み止めとして使用される医薬品としてのアヘンの意味で用いられています。大体、マルクスが著作活動をした当時はアヘンがそれほど危険な薬物とは認識されておらず、タバコなどと同類の単なる嗜好品として考えられていたのです。
 もっとも現代人が《宗教はアヘンである》などと聞くと、まるで《覚醒剤やめますか、それとも人間やめますか》のあのフレーズで印象づけられるような、人間を破戒し駄目にする元凶として「宗教」を捉えているかのように思われるのも無理もありません。しかし、上で見たように、『ヘーゲル法哲学批判序説』が書かれた当初は、決してそのような意味合いでの《麻薬》をこのフレーズが意味していたわけではないのです。せいぜいが「宗教は単なる幻想であって、アヘンを吸飲した時のように一時的に気分を爽快にする程度のものでしかな」いといった程度の意味合いだったので、宗教の「麻薬」性を強調しているわけでは決してなかったのです。しかしながら、アヘンが麻薬としてその危険性が認識され、ソビエト連邦が建国され以降の共産主義国家においては、アヘンの「麻薬」性のみが強調された結果、このフレーズによって宗教は撲滅すべき対象とされ、大規模な宗教弾圧が行なわれる結果ともなっていったのです。
現代世界と麻薬の関わり
黄金の三角地帯

 アヘンの原料であるケシがタイ及びラオス、ミャンマーの山岳地帯で多く栽培されていることから、この地域は一般に「ゴールデントライアングル(黄金の三角地帯)」と言われています。なおこの地域は、タイ・ミャンマー国境の少数民族シャン族開放組織モン・タイ軍の指導者で中国国民党の軍人でもあった麻薬王クン・サ(中国名:張奇夫、07年10月没)が仕切っていたことで有名です。彼によって「黄金の三角地帯」た作り上げられたとも言われています。
黄金の三日月地帯

 黄金の三角地帯と並ぶ世界最大の麻薬及び覚醒剤の密造地帯を「黄金の三日月地帯」と呼び、アフガニスタン(ニームルーズ州)とパキスタン(バローチスターン州)、イランの国境が交錯しています。この地域が黄金の三日月地帯と呼ばれる由縁は、アフガニスタン東部のジャララバードから南部のカンダハールを経由し、南西部のザランジ地方に至る国境地帯が三日月形をしているためであると言われます。なお、この地域で生産されるケシは世界最大級の生産量だとも言われていますが、それも度重なる戦乱によってこの地域の農民が経済的に困窮しているがためであると言われています。
国家産業やマフィアの資金源

 悪名高い禁酒法が廃案となり、莫大な資金源を失ったマフィアは、当然ながら麻薬の密売に本格的に手を染めるようになりました。また、アメリカで60年代後半からコカイン摂取がブームになったことがキッカケで、70年代後半からコロンビアでアメリカ向けに密輸するコカイン栽培が急増しました。コロンビアでコカイン生産を行なったのは、アンデス山中の大都市で動いていた犯罪組織メデジン・カルテルで、犯罪組織はその後コロンビア国家の政治・経済も支配するようになり、コカイン栽培が国家産業のひとつにまで発展してしまったのです。また、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は、90年代から国家の重要な資金源として覚醒剤とアヘンの製造・密輸を行なっています。さらに、少量の生産販売で多額の利益が得られることから、多くの国の反政府ゲリラや民兵組織が資金源として麻薬産業を保有することが多いと言われます。国家や犯罪組織ばかりではありません。同様の理由で、かつ中央政府の支配力が及ばないことから、「黄金の三日月地帯」に特に見られるように、貧しい農家が「究極の換金作物」として麻薬植物を栽培するケースも多く、事実アフガニスタンや内戦当時のレバノン・ベッカー高原などでは盛んに麻薬植物が栽培されているのが現状です。
参考:阿片戦争とは何だったのか?

 阿片戦争は、その名前の通りアヘンの密輸が原因となった戦争で、清の林則徐がイギリスによるアヘンの輸入を禁じ、アヘンを没収し、廃棄処分したことを口実に、1840年より2年間に渡ってイギリスによって一方的に起こされた清とイギリスとの間の戦争です。
アヘン貿易とその取り締り

阿片戦争の映画ポスター 当時のイギリスでは喫茶の風習が上流階級の間で広がり、茶、陶磁器、絹を大量に清から輸入していました。一方イギリスから清へ輸出されるものは時計や望遠鏡のような富裕層向けの物品はあったものの、大量に輸出可能な製品が存在しなかった上、イギリスの大幅な輸入超過状態でした。イギリスはアメリカ独立戦争の戦費調達や産業革命による資本蓄積のため銀の国外流出を抑制する政策を採りましたが、そのため、イギリスは植民地のインドで栽培したアヘンを清に密輸出することでその超過分を相殺し、三角貿易を整えることになりました。
 一方、清では既に1796年にアヘンの輸入を禁止していました。禁止令は19世紀に入ってからも何度となく発せられましたが、しかし、アヘンの密輸入は止まず、清国内にアヘン吸引の悪弊が広まって健康を害する者が多くなり、当然ながら風紀も退廃してゆきました。また、アヘンの輸入代金を銀で決済したことからアヘンの輸入量増加により貿易収支が逆転し、そのため清国内の銀保有量が激減し銀の高騰を招いたのです。当時の清は銀本位制で、銀貨と銅銭が併用され、そして、その交換比率は相場と連動し、銀貨1両に対して銅銭1000文程度であったものが、銀の高騰により銀貨1両に対して銅銭2000文という比率になってしまいました。この頃の清では税金を銀貨で納付するよう規定していたため、日常生活で銅銭を使用し、税金の納付において銅銭を銀貨に交換していた農民は、納める税金が2倍になった計算です。さらに、銀が不足して値が上がることは物価が下がることと同義で、そのため、清の基本的な税制である地丁銀制が事実上崩壊し、経済にも深刻な影響を及ぼしたのです。

 このような事態に至って、清では官僚の許乃済から『許太常奏議』と言われる「弛禁論」が出ました。その概要は、「アヘンを取り締まることは無理だから、輸入を認めて関税を徴収した方がよい」というものです。この論は殆どの人から反対を受けて一蹴されました。その後アヘンを吸引した者は死刑に処すべきだと言う意見が出て、道光帝は1838年に林則徐を欽差大臣(特命大臣)に任命して広東に派遣し、アヘン密輸の取り締まりに当たらせました。林則徐はアヘンを扱う商人からの贈賄にも応じず、非常に厳しいアヘン密輸に対する取り締まりを行ないました。1839年には、アヘン商人たちに「今後一切アヘンを清国国内に持ち込まない」という旨の誓約書の提出を要求し、イギリス商人が持っていたアヘンを没収、同年6月6日にはこれをまとめて焼却処分しました。この時に処分したアヘンの総量は1400トンを超えたと言われます。そして、その後も誓約書を出さないアヘン商人たちを港から退去させたと言います。
 イギリスの監察官のチャールズ・エリオットはイギリス商船を海上に留めて林則徐に抗議を行なっていましたが、林則徐は「誓約書を提出すれば貿易を許す」と返事をしました。実際にアメリカ合衆国の商人は誓約書を直ぐに提出して貿易を再開し、ライバルがいなくなったことで巨利を得ていました。そこでクェーカー教の教義に従ってアヘンを扱っていなかったトマス・カウツ号というイギリス商船が誓約書を提出して貿易を再開しました。これに続こうとした商船をエリオットは軍艦を出して引き止め、無条件での貿易禁止の解除を求める要望書を再度出しましたが、林則徐はこれを撥ねつけたのです。
戦争勃発〜終戦後の推移

 1839年11月3日、林則徐による貿易拒否の返答を口実にイギリスは戦火を開き、清国船団を壊滅させました。「麻薬の密輸」という開戦理由に対しては、イギリス本国の議会でも野党保守党のウィリアム・グラッドストン(後に自由党首相)らを中心に「こんな恥さらしな戦争はない」などと反対の声が強かったのですが、清に対する出兵に関する予算案は賛成271票、反対262票の僅差で承認され、この議決を受けたイギリス海軍はイギリス東洋艦隊を編成して派遣したのです。しかし、艦隊は広州へは赴かず、いきなり天津沖に姿を現わしました。北京に近い天津に軍艦が現われたことに驚いた清政府は、政権内の権力闘争も加わって林則徐を解任、イギリスに対する政策を軟化させました。
 1840年11月、イギリス艦隊は、清政府に対して香港割譲などの要求を出しましたが、清政府はこれを拒否、翌年1月7日、艦隊は攻撃を開始しました。虎門の戦いでは関天培らが奮戦するも、イギリス側は完全に制海権を握り、火力にも優るイギリス側が自由に上陸地点を選択出来る状況の下、戦争は複数の拠点を防御しなければならぬ清側正規軍に対する一方的な各個撃破の様相を呈したと言います。しかし、1841年5月、広州に上陸した英軍は略奪や暴行事件を起こして民衆の怒りを買い、正規軍である八旗兵ではなく三元里と周辺の郷村の一万余の民衆が決起して「平英団」を名乗り、イギリス軍を包囲して攻撃しました。折からの豪雨で英軍は火器が使用出来ない状態で刀や矛で襲いかかる三元里住民の攻撃に対して銃剣で防戦するも、英軍は全滅の危機に晒されました。 英軍は広州の清朝政府に包囲の解除を求め、辛くも脱出に成功したのです(三元里事件)。

 1842年8月29日、両国は江寧(南京)条約に調印し、こうして阿片戦争は終結しました。この条約で清は多額の賠償金と香港の割譲、広東・厦門・福州・寧波・上海の開港を認め、また、翌年の虎門寨追加条約では治外法権や関税自主権放棄、最恵国待遇条項承認などを余儀なくされました。ただ、意外にも戦争の原因となったアヘンについては特には触れられなかったと言いますが、それは、この戦争の発端となった恥ずべき原因を文書上に残すことをイギリス側が躊躇したためであると言われます。そして、このイギリスと清との不平等条約に他の列強諸国も便乗するところとなり、アメリカ合衆国との望厦条約、フランスとの黄埔条約などが結ばれています。


 なお、この戦争をイギリスが引き起こした目的は大きく言って2つあると言われます。それは、(1)東アジアで支配的存在であった中国を中心とする朝貢体制の打破と、(2)厳しい貿易制限を撤廃して自国の商品をもっと中国側に買わせることです。しかし、結果として中英間における外交体制に大きな風穴を開けることには成功したものの、もうひとつの経済的目的「全ての中国人にイギリス製の靴下を履かせる」という目論見は達成されませんでした。それは中国製の綿製品がイギリス製品の輸入を阻害したからです。これをよしとしなかったイギリスは当然ながら次の機会を窺うようになり、これが第2次阿片戦争とも言われるアロー戦争へと繋がっていくことになるのです。
阿片戦争が内外に与えた影響


清国への影響
 阿片戦争は清側の敗戦でしたが、しかし、これで深刻な衝撃を受けた人々は意外と限られていました。それは、北京から遠く離れた広東が主戦場であったことや、また、中華が夷狄(異民族)に敗れることは歴史上にも間々見られたことがその原因とされます。しかし、一部の人々はイギリスがそれまでの中国の歴史上に度々登場した夷狄とは異なる存在であることを見抜いていました。たとえば林則徐のブレーンであった魏源は、林則徐が収集していたイギリスやアメリカ合衆国の情報を委託され、それを下に『海国図志』を著わしましたが、「夷の長技を師とし以て夷を制す」という有名な一節は、これ以後の中国近代史が辿った「西欧諸国の技術・思想を受容して改革を図る」というスタイルを端的に言い表わした言葉です。ちなみに、この書は東アジアにおける初めての本格的な世界紹介書でした。それまでにも地誌はありました、西欧諸国については極めて粗略で誤解に満ちたものであったため、詳しい情報を記した魏源の『海国図志』は画期的であったということが出来ます。

アヘンと銀
 アヘンの輸入量は1800〜01年の約4500箱(一箱約60kg)から1830〜31年には2万箱、アヘン戦争前夜の1838〜39年には約4万箱に達したため、1830年代末にはアヘンの代価として清朝国家歳入の80%に相当する銀が国外に流出したと言います。こうした銀の大量流出は国内の銀流通量を著しく減少させ、当然ながら銀貨の高騰をもたらしました。乾隆時代には銀1両(約37g)は銅銭700〜800文と交換されていましたが、1830年にはそれが1200文となり、30年代末には最大で2000文にも達したのです。地丁銀の税額は銀何両という形で指定されますが、農民が実際に手にするのは銅銭であったため、上でも書いたように納税の際には銅銭を銀に換算しなければならなかったのです。従って、銀貨が倍に高騰するということは納税額が倍に増えることに等しかったわけです。

日本への影響
 阿片戦争における清朝の敗戦は、清の商人によっていち早く幕末の日本にも伝えられ、当然ながら大きな衝撃を持って迎えられました。そして、以前より蘭学が発達していた日本では、中国本土よりも早くこの戦争の国際的な意味を理解して危機感を募らせたのです。その証拠に、魏源の『海国図志』も直ぐに日本に伝えられています。要するに、幕末における改革の機運を盛り上げる一翼を、この阿片戦争から生まれた書物が担っていたことになります。それまで異国船打払令を出すなど強硬な態度を採っていた幕府もこの戦争結果に驚愕し、薪水給与令を新たに打ち出すなど欧米列強への態度を軟化させることになりました。そして、この幕府の及び腰が、やがて倒幕、明治維新へという大きな流れとなり、日本を近代国家へと生まれ変わらせる端緒となるのです。


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【4】薬物依存症とその治療〜ダメ。ゼッタイ。〜

 薬物乱用の恐ろしさは単に乱用者自身の精神や身体上の問題だけに留まらず、家庭内暴力などによる家庭の崩壊や、さらには殺人・放火事件など悲惨な事件の原因とももなるもので、それは社会全体への問題と発展する憂慮すべき問題です。
 本項では、薬物乱用や薬物依存の問題を取り上げ、最後の薬物依存からの回復法についても解説しました。
薬物乱用〜現代の若者を蝕む危険なクスリ〜

 上でも詳しく紹介したように、古くは歴史に学べばイギリスと中国との間で戦われた阿片戦争のように、薬物の乱用を放置すればそれは国家の存亡にも関わる極めて重大な問題となり得るのです。麻薬や覚醒剤といった危険なクスリは、軽い気持ちで使っているうちに止められなくなるという「依存性」と、乱用による幻覚や妄想に伴う自傷・他害の危険性があるという大きな特徴があるのです。一度だけのつもりがいつの間にか中毒となり、一度しかない人生が取り返しのつかないものとなってしまう危険性を孕んだ、このような薬物乱用の恐ろしさを充分に認識し、薬物乱用問題を考えなければなりません。
 そのためにも本項では、青少年と危険なクスリの関係について以下でなるべく詳しく解説しました。
危険なクスリに手を出すな!

 薬物乱用の恐ろしさは、単に乱用者自身の精神や身体上の問題に留まらず、家庭内暴力などによる家庭の崩壊、さらには殺人や放火などといった悲惨な事件の原因にもなるもので、ひいては社会全体への問題と発展するのです。さらに歴史に学べば、イギリスと中国のあへん戦争にも見られるように、薬物の乱用を放置すればこのように国家の存亡に関わる極めて重大な問題ともなり得るのです。
 とにかく麻薬や覚醒剤などの薬物は、使用しているうちにやめられなくなるという依存性と、乱用による幻覚や妄想に伴う自傷・他害の危険性もかなりあるという大きな特徴があります。一度だけのつもりが、いつの間にか中毒となり、こうして、一度きりしかない人生が取り返しのつかないものとなってしまうのです。実社会に忍び寄る恐ろしき魔であるこのような薬物乱用の恐ろしさを私たちも充分に認識し、薬物乱用問題を考えたいものです。
「ダメ。ゼッタイ。」普及運動
薬物乱用とは?

 薬物乱用とは、医薬品を本来の医療目的から逸脱した用法や用量或は目的の下に使用すること、及び医療目的にない薬物を不正に使用することを言いますが、医療目的の薬物は元々治療や検査のために使われるもので、それを遊びや快感を求めるために使用した場合は、たとえ1回使用しただけでも乱用に当たります。

 大体、現代人の多くは薬物に対する正しい知識が薄れています。くれぐれも注意したいものです。とにかく、医薬品は長年の英知の結果生まれた産物なので、治療等には欠かせない大切なものであるはずです。医師の指示に従って用法と用量を守って使うことが大切です。
薬物乱用予備軍を育む現代社会

 現在我が国では、厳しい取締や処罰の強化に対しても、覚醒剤やシンナーに代表される有機溶剤の乱用が抵抗性を示し、過去に経験した薬物乱用と比較して著しく長期化する傾向が窺われます。その理由としては、これらの薬物の入手可能性が高いこともその一因ですが、やはり都市化現象など現代社会の持つ病理性が大きな背景になっていることも乱用の原因になっているのではないでしょうか。我が国においては、60年代の高度経済成長の影響による生活水準の向上や都市化現象など社会の構造的変化が指摘されていますが、特に次代を担う青少年の生育・生活環境においては極度に大きな変化がもたらされています。これらの変化が青少年を薬物の乱用や非行へと結び付ける温床となっているものと考えられます。
青少年を取り巻く生活環境の変化


■青少年を取り巻く生活環境の変化
■1:  生活水準の向上に伴って価値観が多様化し、社会的規範の低下やサブカルチャーを容認する傾向が助長されていること
■2:  都市化現象に伴う自然環境からの隔離や社会的連帯感及び日常の人間関係の希薄化、疎外感の助長、都市のもつ匿名性、享楽的風潮などが助長されていること
■3:  進学率の著しい上昇と高学歴化の進行、受験準備の大衆化に伴って、落ちこぼれる児童・生徒が続出していること。また、教師と生徒との人格的触れ合いが不足する傾向にあること
■4:  核家族や少子家族が一般的となり、大家族が従来持っていた家族の教育=養育機能が低下する傾向にあること
■5:  情報化の進展の中で、的確な判断や情報の選別力に青少年が情報の洪水(たとえばアルコール飲料のCMなど)に押し流され、主体性を失う恐れが強くなると共に、青少年の考え方や行動が感覚的になってしまう傾向にあること
■6:  国際化の進展の中で、海外渡航した青少年が大麻などの薬物乱用に汚染されて、その流行を持ち帰る危険性が増大していること など

青少年の好奇心と危険なクスリ

青少年と薬物乱用のパターン


 青年期は、親や社会が危険だからと禁止していることにも自分で試してみなくては中々納得できない、その意味で好奇心と冒険心に富む年代で、当然ながらそのことから様々な発明や発見もなされるでしょう。青年期の冒険には、一時的な疾病的逃避やサボりといった自我収縮的冒険もあれば、また、喫煙・飲酒などといった自我拡張的冒険もあります。そして、これらの願望が進行した病理的な段階では、非社会的或は反社会的な行動として何らかの治療的対応が必要となる場合もあります。
 なお、シンナーなど有機溶剤吸引などの薬物乱用は、自我拡張的な反社会的行動としても自我収縮的な反社会的行動としても見られるものです。社会では非社会的行動に対しては比較的同情をもって対応することが一般的ですが、反社会的行動にも同じく愛情をもって対応して欲しいものです。
危険なクスリを近づけるな!

 麻薬類の中には、その昔、人々の心身に生じたあらゆる苦痛を鎮め、怒りや悲しみさえも癒してくれる「奇跡の薬」として存在していたものもあり、そして、今なお医薬品として「これに勝るものなし」と言われるものもあります。しかしながら「毒と薬は紙一重」の譬えもある通り、どんなに優れた薬であっても、ひと度その使い方を誤ると思いもよらぬ危険な「両刃の剣」となってしまう場合が少なくないのです。特に麻薬や覚醒剤などの薬物は精神的な依存症や身体的な依存症が強い特徴があるため、私たちの肉体や精神に強く作用して容易に慢性中毒を招いたり、「薬物乱用」という重大問題を惹き起こしたりします。さらに薬物乱用による弊害は、乱用者個人の心身を荒廃させるばかりでなく、平穏な家庭を破壊し、殺人などの凶悪な犯罪を誘発するなど広く社会に及ぶもので、それは「目に見えない恐ろしい敵の侵入」として、宣戦布告のない戦争にも譬えられるるかも知れません。

 社会の敵であるクスリから健全な社会を取り戻すためにも、社会人として責任ある者が全員で協力し、責任を分かち合ってゆかねばなりません。問題は考えられる以上に深刻な状態になっています。とにかく東京の上野辺りの公園の現状は実に嘆かわしいもので、正常な平凡な家庭にまで白い魔手が今や忍び寄っているのです。
薬物依存症とは?
薬物依存症とは?

薬物乱用から中毒へ


 薬物依存症とは、いわゆる精神疾患のひとつで、脳内の神経伝達物質として報酬系などに作用する薬物である“脳に直接作用する物質”に対する依存が多いとされますが、医学上はあらゆる薬物への依存が薬物依存症に含められます。なお、以前は薬物中毒(略して薬中)と言われたこともありますが、差別用語(薬物で誘発された精神疾患は重篤になりやすい)に当たることから、現在では殆ど使われていません。また、詳しくは後述しますが、薬物依存の症状としては、(1)精神的依存(2)身体的依存とに分けることが出来ます。
 なお、薬物依存症以外の他の依存症には、脳内麻薬が多量に分泌する「状況への依存」(例:ギャンブル依存症、ショッピング依存症など)や、或は「人間関係の依存」(例:共依存など)が上げられます。さらに、精神疾患の強迫性障害に伴う気分変調を紛らわすという目的で薬物に依存し、アルコール依存症などに陥る場合も考えられるケースです。それだけでなく、ニコチンに対する依存症である喫煙のように、依存者自身やその周囲にいる他者へ受動喫煙として悪影響を与えることで、生活習慣病や重大な死因、気管支の疾患や胎児へ影響し、健康に対する影響が社会的に甚大である薬物もあります。ちなみにアルコールへの依存も、未成年者の脳の発育や胎児、生活習慣病や肝臓の疾患に影響しますが、これらを日本での社会的な費用に換算すると、喫煙は社会全体で約4兆円の損失、アルコールは社会全体で医療費や収入源などを含め約6兆6千億円になると言われています。

 また、依存性のある治療薬の濫用が社会問題として取り上げられることもあります。たとえば覚醒作用のある薬物で、眠気を発作的に惹き起こすナルコレプシーや、アメリカで注意欠陥/多動性障害(AD/HD)に処方されるメチルフェニデート(リタリン)やアンフェタミンがその代表です(※アンフェタミンは日本では覚せい剤取締法で覚醒剤に指定され、規制されています)。なお、日本では07年頃「リタリン依存」が社会問題化し、厳しく管理されるようになりました。そして、このような一部の不心得者のために、リタリンを本当に必要とするAD/HDの患者などがリタリンの処方を受けられなくなって問題となりましたが、そのような迷惑がかかるため、不適切な薬物の利用にはくれぐれも注意しなければなりません。


 とにかく薬物依存症は、意志や人格に問題があるというよりも、依存に陥りやすい脳内麻薬分泌を正常に制御出来ない状況が惹き起こした病気であると捉えることが出来ます。そして、「まだ大丈夫だ」と問題を否認し高をくくっているうちに、それらの薬物が肉体や精神、そして実生活を徐々に破壊してゆくのです。それは、家族などの周囲をも巻き込みながら進行し、社会生活や生命の破滅に至ることも決して稀ではありません。なお、ここで言う薬物を「法制上禁止されている薬物」という意味合いに捉え、特に麻薬や違法とされる向精神薬、覚醒剤などによる薬物依存症のことを指す言葉として用いられることがよくあります。(ちなみに、一般的に幻覚剤には強い依存性はなく、さらに他の薬物の依存症の治療に良好な結果が見られるものもあります。) 
精神的依存と身体的依存

 依存症の症状は、(1)「精神症状(いわゆる精神依存)」と、(2)「身体的離脱症状(いわゆる身体依存)」とに分類することが出来ます。ただし、(1)精神依存はあらゆる物質(カフェインや糖分など食品中に含むものも含む)やある種の行為に見られますが、一方の(2)身体依存は必ずしも全ての依存に見られるわけではありません。たとえば薬物以外による依存では身体依存は形成されないし、また、薬物依存の場合も身体依存を伴わないものがあるからです。


精神依存:
 薬物等の使用のコントロールが出来なくなる症状。使用を中止すると、精神的離脱症状として強い不快感を持ち、該当物質を探すなどの行動が見られるようになるす。
身体依存:
 使用を中止することで痙攣などの身体的離脱症状(=退薬症状、いわゆる禁断症状)が出現することがある。

離脱症状と耐性

 離脱症状とは、摂取した薬物が身体から分解や排出されて体内から減ってきた際に起こるイライラを始めとした不快な症状を言います。このような離脱症状を回避するために、再び薬物を摂取することを繰り返して薬物に依存することとなのです。なお、アルコールのように手の振るえなどの身体に禁断症状が出る場合もあります。
 また、依存性薬物の中には、連用することによってその薬物が効きにくくなるものがありますが、これを薬物に対する耐性の形成と呼びます。薬物が効きにくくなる度に使用量が増えてゆくことが多く、最初は少量であったものが、最後には致死量に近い量を摂取するようになることすらあるのです。ちなみに、耐性が形成されやすい薬物として、アンフェタミン類やモルヒネ類(オピオイド類)、アルコールなどを挙げることが出来ます。
薬物依存症からの回復法


薬物依存症の回復
 たとえばニコチンの依存では様々な禁煙プログラムなども考え出されています。

生理的な回復
 摂取した薬物は脳内で本来働いている物質と似たような物質として働きますが、この本来働いている脳内物質をリガンド、摂取しリガンドの代わりに働く薬物はアゴニストと呼ばれます。依存性がある薬物の血中濃度が下がってくると、生理的に不快な感覚が離脱症状として表われ、再び薬物を摂取したいという欲求が高まります。薬物毎に血中濃度が半分になる半減期が薬物の特性として分かっています。これを治療者側が利用して、アゴニストとして働いていた物質が不足すれば生理的に不快な離脱症状が起こるが、これを耐えて再び薬物を摂取せずに薬物摂取のために分泌が少なくなっていたリガンドの分泌を回復させてゆくことで離脱症状を薄れさせ、依存症から回復することが可能となります。

心理的なサポート
 アルコール依存症などを回復する目的で、同じような境遇の人々が集まってお互いに影響を与える自助グループがあり、様々な依存症からの克服目的でよく利用されています。

参考1:幻覚剤による心理療法
 ロシアの薬物乱用の専門治療を行なう精神科医のエフゲニー・クルピツキーは、過去20年間に渡って麻酔薬のケタミンを幻覚剤として利用するアルコール依存症の治療を行なって来ました、111人の被験者のうち66%が少なくとも1年間禁酒を継続し、対象群では24%であったなどの幾つかの報告があるそうです。また、ケタミンはヘロインの依存症患者に対しても薬物の利用を中断する効果が見られ、さらにアヘンの禁断症状を減衰させたとも言います。また、幻覚剤のアヤワスカがアルコールや麻薬の常習を減らしたという報告もあると言います。

参考2:治療とリハビリテーションのための社会体制の整備
 薬物乱用を早期発見し、早期治療に結びつけるため、国連薬物犯罪事務所(UNDOC)は次の社会体制整備を必須としています。
  • 薬物乱用を早期発見し、治療施設に繋いでゆく
  • 医療施設のない地域にも活動を拡大してゆく
  • 医療者・ソーシャルワーカー・カウンセラーらのチームによる精神的・社会的介入
  • カウンセリングや回復のための薬物治療、復職など社会復帰への支援の協同

薬物依存症の治療とその実際

 覚醒剤やシンナーを中心とする薬物依存症の治療が実際にどこで・どのように行なわれているのか、現在余り知られていませんし、また、当人はもとより家族でさえも誤解や偏見を持っている場合が多く、そのことが適切な治療を進めてゆく上での障害となっていることがよくあります。なお、当事者や周囲の状況によって治療方法の組み合わせは様々考えられます。実際には薬物依存症の治療を専門的に行なっている医療機関はまだ非常に限定されているのが実情ですが、治療を始めるに当たっては、まずは適切な医療機関に個別に相談されることをオススメします。
 そこで本節では、薬物依存症の治療方法として代表的な3つについて以下で紹介・解説します。
1)通院治療

 多少なりとも当人に薬物の使用を止めようという意思があり、精神症状(幻覚や妄想)が軽微で、治療の継続に周囲の協力が得られる状況がある場合には、通院による治療が可能です。

 通院は、治療開始1〜2ヶ月の間は1週間に1度の頻度で行ないます。内容としては、個人精神療法(カウンセリング)が中心で、幻覚や妄想といった精神症状の有無や意欲の低下(抑鬱症状など)の程度に応じて薬物による治療が併せて行なわれます。現在では、通院治療だけで回復してゆく方もたくさんいるそうです。
 個人精神療法では、薬物依存症という病の理解(疾病教育)やこの問題の具体的な対処方法等が当人の状況に合わせて繰り返し話し合われ、当事者の認識を深めてゆきます。薬物依存症の治療では、実際の生活環境の中でどうやって断薬をし続けてゆくかが回復への大きな鍵となるからです。なお、当人のみならず、当人を支える周囲の人々の理解も非常に大切なので、家族に対するカウンセリングや家族療法等が併せて行なわれることもあります。
2)入院治療

 薬物の連続使用が継続し、著しい精神症状(幻覚や妄想状態)や興奮ないし混乱を伴っている場合には、治療を始めるに当ってまず入院治療が必要になることが少なくありません。入院の形態としては、大きく分けると、(1)当人の同意に基づく「任意入院」と、(2)保護者(法律の規定)の同意に基づく「医療保護入院」とがあります。

 入院期間は、数週間〜2ヶ月前後が適当と考えられています。入院直後は、入院前の薬物乱用で疲弊した体力を回復するために必要な時期で、その後は、入院治療による精神症状の改善が見られるもののやはり、薬物に対する欲求・依存は依然強い時期が続きます。そのため、この時期に何らかの理由によって退院してしまうと、折角の入院が断薬の契機とならず、多くは治療そのものの中断となってしまいます。しかし、入院も数週間を過ぎる頃から精神的にも落ち着きを取り戻し、依存を自分の問題として穏やかな態度で理解出来るようになり、薬物に執われていた、或は幻覚妄想に支配されていた自分を省みることが出来るようになります。たとえ当人の側から見ると強制的に入院をさせられた場合においても、このような自覚や反省が回復への意思を強めるキッカケとなります。
 このように入院治療の目標は、精神症状の改善と共に、薬物依存を自分の問題として捉えることが出来るように促すことにあります。なお、退院後の生活において断薬を続けてゆくために、引き続き通院治療を受けることやセルフヘルプグループなどに参加してみることがとても大切になるのは当然のことです。
3)セルフヘルプグループ

 同じ問題に立ち向かっている人々が集まり、お互いの体験や思いを共有したり、お互いに支え合い、励まし合いながら依存症という病を克服してゆく場として、自助組織(セルフヘルプグループ)があります。こういった自助組織は、依存症治療の中で重要な社会資源のひとつとされています。

 自助組織の活動の中心は「ミーティング」と呼ばれるもので、ミーティングの参加者は、匿名ないしはニックネームを名乗り、グループの中で開かれた態度で自らの体験談を語る、といったスタイルで行なわれます。こういったミーティングで出会う仲間の存在は、断薬を継続してゆくための精神的な支えとなり、自らの言葉で悩みや苦しみを語ることが、自分自身や自分の抱えている問題への気づきとなります。そして、断薬に成功している数多くの人の話は自らの断薬に向けての具体的な目標を見つける助けともなります。
 なお、これら自助グループは、たとえばアルコール医療では「断酒会」や「AA」「MAC」といったものが有名ですが、薬物依存症の分野では「DARC(ダルク)」や「NA」といった施設や組織が活動を展開しています。
参考:相談施設とリハビリ機関の紹


■参考:関連ホームページ
薬物乱用防止「ダメ。ゼッタイ。」ホームページ
http://www.dapc.or.jp/
NPO法人 全国薬物依存症者家族連合会(薬家連)
http://www.yakkaren.com/index.htm
全国ダルク
http://www.yakkaren.com/zenkoku.html
東京ダルク
http://tokyo-darc.org/
参考:関連書籍〜東京ダルク
http://tokyo-darc.org/shoseki.html


ダルクとは?
 ダルク(DARC)とは、ドラッグ(Drag:薬物)のD、アディクション(Addiction:嗜癖、病的依存)のA、リハビリテーション(Rehabilitation:回復)のR、センター(Center:施設、建物)のCを組み合わせた造語で、覚醒剤や有機溶剤(シンナー等)、市販薬その他の薬物から薬物中毒=依存者が開放されるためのプログラムを持つ民間の薬物依存症リハビリ施設のことです。ちなみに、ダルクのスッタフは全員がかつての薬物依存者で、新しい入寮者は仲間となります。薬物依存者同士、病気の分かち合いをしながら回復・生長し、薬物を決して使わない生き方の実践をしてゆくよう入寮者を手助けしてゆくための組織として設立されています。
 そのためダルクでは、入寮して同じ悩み(病気)を持つ仲間とフェローシップの中で回復するために場所を提供をし、12ステップによる今までとは違う生き方をする「練習の場」でもあると規定されています。 施設ではミーティング(グループセラピー)をダルクまたはその他の自助グループへの参加により1日に2回、また、午後はレクリエーションで山登りやソフトボール、スポーツジム、温泉などに行って“薬物を使わないで生きる”ここからスタートします。そして、そのことを毎日続けることで薬を使わないクリーンな生き方をし、生長してゆくことが回復となります。また、ダルクでは、自助グループの参加や医療機関との連携も薬物依存からの回復に欠かせないプログラムの一環として行なわれています。


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