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今月のワンポイントアドバイス



 昨今の景気悪化は留まることを知りません。「派遣切り」に「内定取り消し」と暗いニュースに事欠かない毎日です。特に今年は製造業を中心とした「2009年問題」という雇用問題が控えています。「100年に1度」と言われる経済不安の中で経済恐慌そのものの大量失業時代を迎えるのか。そのような雇用不安に怯える国民は財布の紐をますます締めています。

 今月は、いま騒がれている派遣切りの問題と、その背景にあると言われる「2009年問題」について取り上げました。
ネットカフェ難民と派遣労働

派遣切りと2009年問題
【1】景気の悪化と派遣切りの横行
【2】2009年問題と募る雇用不安
【3】非正規雇用とその問題点
【4】どう乗り切る?派遣切りと2009年問題


【1】景気の悪化と派遣切りの横行

 度重なる派遣切りや内定取り消しのニュースにも如実に現われているように、昨今の景気悪化とそれに伴う雇用環境の悪化は今や非常に厳しい状況にあります。
 2009年問題について詳しく取り上げる前に、本項では、アメリカ発の金融不安の余波で世界経済に暗雲が立ち込める昨今、ますます悪化する景気の内実と、そのために横行する「派遣切り」が急増した理由について解説しました。
ますます加速する景気悪化

 「100年に1度」と言われるアメリカ発の金融不安の余波で、世界経済にいま暗雲が立ち込めています。そして、倒産増加に設備投資減、物価高に消費マインド悪化と言った具合で、景気減速を裏付けるデータが相次いで発表されています。

 それでは、巷の景気悪化はどのぐらい深刻なのか? 本節では、悲鳴を上げる企業や家計の実態を探ってみました。
設備投資減に輸入減〜国内景気は悪化の一途〜

 内閣は昨年の9月19日に9月の月例経済報告を発表して、景気の基調判断を「このところ弱含んでいる」に据え置き、先行きについては「当面弱い動きが続くと見られる」と弱腰の見通しを示しました。その内訳では、設備投資と輸入の2項目が前月から下方修正し、また、設備投資の減少傾向にアジアからの輸入減と、国内需要の低迷が色濃くなっています。その一方で、世界経済についても、8月の月例経済報告における「景気は、減速の動きに広がりが見られるるものの回復を続けている」から、「減速の動きに広がりが見られる」にレベルダウンしました。特にアメリカ及びヨーロッパの景気の減速懸念が高まっており、今まで好調路線を走ってきた途上国経済にも陰りを落としそうな空模様です。
給料ジリ貧に物価高〜庶民の生活苦はまだ続く〜

 それでは国内の消費動向はどうなっているでしょうか? 

 政府の判断は「おおむね横ばいとなっている」に据え置きです。ただ、消費マインドが悪化する中、所得も弱含みの状態で、先行きの判断には弱腰の色が滲み出ています。また、消費者物価については、政府は「緩やかに上昇している」判断を継続し、この傾向は当面変わらない見込みだそうです。そう言えば、総務省発表の全国消費者物価指数も11カ月連続の前年同月比プラスと、「給料ジリ貧・物価高」に喘ぐ庶民の生活苦は今後も続きそうな状況です。
企業倒産は過去7年で最多〜マンション不況で上場会社も相次いで倒産〜

 以上のように政府はかなり弱腰の景気判断を示しているわけですが、企業や家計の実態を見ると、事態はさらに深刻です。それでは、家計から企業の現場に目を向けてみると、景況は一体どうなっているでしょうか? 

 最初に、企業の倒産状況を調べて見ましょう。帝国データバンクの全国企業倒産集計(負債額1000万円以上)によると、07年度の倒産件数は前年度比18.4%増と大幅にアップして、その数1万1,333件と、01年度以降の7年間で最多を記録しました。そしてその原因は、(1)原油などの原材料価格の高騰、(2)輸出企業に打撃を与える円高、(3)建設=不動産不況を生み出した建築基準法の厳格化などが挙げられます。
景気は下降、収益もダウン

 それでは、企業自身は景気をどう見ているのでしょうか? 

 昨年7−9月期の法人企業景気予測調査(※全国の資本金1,000万円以上の企業約1万4,000社を対象に景況感などに関し4半期=3ヶ月毎に行なう国の調査)によると、大企業・中小企業など企業規模を問わず、自社の景況を「上昇」と回答した企業よりも「下降」とした企業の割合の方が多くなりした。そして、先行きも「下降」超が続く見通しです。その上、自社のみならず国内の景況についても同様に悲観的見通しが示され、最初に触れた政府の弱腰判断よりも現実には悲観色が強まっていると言えそうです。さらに設備投資に関しては、今年度は前年同期比2.4%減程度の見通しで、業種別では、製造業は増加、非製造業は減少の見込みです。そして、経常利益に関しても同7.5%の減益見通しで、製造業・非製造業ともに減益の見込みです。
 何れにせよこうなると、景気動向に大きな影響を与える設備投資は全体として減る見込みで、特に非製造業が足を引っ張っている模様で、また、事業活動全体の利益を示す経常利益は業種を問わずダウンする見込みです。とにかく、これでは悲観色が強まるのも無理はないと言ってよいでしょう。


■経済成長率と大企業の業況判断(DI)
■経済成長率の推移
経済成長率
■大企業の業況判断(DI)の推移
大企業の業況判断(DI)

生活にゆとりがない生活者〜物価高は天井知らずなのに給料はジリ貧〜

 それでは、一般の生活者は景気をどう見ているのでしょうか? 

 日銀が発表した昨年9月の「生活意識に関するアンケート調査」によると、現在の景況感が1年前に比べて「悪くなった」と答えた人の割合は何と81.0%に上ると言います。6月の調査から比べて景気が悪化したと感じた割合が12ポイントも増えて8割超に上ったのです。また、自分自身の暮らし向きについても、「1年前と比べゆとりが無くなってきた」とした回答が65.2%に増加しました。要するに3人に2人が「暮らし向きが悪くなった」と感じているのです。
 とにかく物価高は天井知らずなのに給料はジリ貧で、家計は火の車。食費を切り詰めるのに頭を悩ませる日々だと言ってよいでしょう。
ほぼ全ての家庭に物価高による打撃が・・・

 最後に、庶民の生活を蝕む元凶となるのが天井知らずの物価高です。
 内閣府が昨年8月に行なった国民生活モニター調査によると、食料品や石油製品などの値上げで家計が影響を受けていると回答した人も、これまた99.2%に上ります。すなわち、ほぼ全員が家計に打撃を受けていて、家計の負担増は実に深刻だと言ってよいでしょう。
派遣切りが急増する理由

 最近「派遣切り」という言葉がマスコミを賑わしていますが、何故マスコミを騒がすほど昨今急に「派遣切り」が横行しているのでしょうか? 

 本節では、その「派遣切り」問題の背景について、以下でごく簡単に解説しました。
ソニー・ショック!〜ついに「正社員切り」へ!〜

 大規模なリストラの前段階として、雇用契約を更新されなかったり、或は契約を途中で打ち切られたりする「派遣切り」が急増しています。後でまた詳しく触れますが、厚生労働省によれば、「派遣切り」などで失業する非正規労働者が、昨年10月以降来年3月までの間で3万人に達する見込みだそうです。そして、その大半が製造業で働く人たちで、たとえば都道府県別では愛知県の自動車関連メーカーの集積地が断然多くなっています。その一方で、昨年の12月9日にソニーが1万6,000人超の人員削減を発表したのは記憶に新しいでしょう。その内訳は、正社員約8,000人と派遣社員など非正規雇用の従業員8,000人以上だと言われています。他の大手メーカー5社も既に合計1,430人の削減を発表しており、こうした動きは今後も広がりそうな状況です。

 このように、「派遣切り」急増のニュースは皆さんもご存知の通りですが、景気がさらに悪化すれば、当然それでは済まずに「正社員切り」すなわちリストラへと企業の対策が進んでゆくのは理の当然だと言ってよいでしょう。
派遣切りの背景にある「2009年問題」

 それにしても、ここ最近急に「派遣切り」が増えたのは何故なのでしょうか? 

 その背景にあるのが、いわゆる「2009年問題」です。
 後でまた詳しく触れますが、簡単に言えば「2009年問題」とは、製造業を中心とした派遣労働者の多くが2009年中に契約の期限切れを迎えることで大量の失業が予想されることを言います。多くのメーカーでは06年3月以降、雇用契約を「請負」から「派遣」へと切り替えましたが、その理由は、実態は派遣なのに業務請負のように装う「偽装請負」が露見したからで、こうした違法行為を改めるため、法律で契約期間の上限が3年までと定められている「派遣」に切り替え、その3年後の期限が来年到来する、というわけです。09年の世界経済の成長率が0%台に落ち込むことが予想される中、立場の弱い非正規雇用の労働環境をどう守るべきなのか? 国は重い課題を突きつけられていると言えます。
参考:労働者派遣法の流れ


■労働者派遣法の流れ
1985年(昭和60年) 労働者派遣法制定、適用を13業務に限定
1986年(昭和61年) 労働者派遣法施行、適用を16業務に拡大、労働省告示第37号公布(派遣と請負の区別に関する基準)
1996年(平成8年) 労働者派遣法改正、対象を26業務に拡大
1999年(平成11年) 労働者派遣法改正、対象原則自由(ネガティブリスト化)
2004年(平成16年) 労働者派遣法改正、26業務以外業務3年可「物の製造」派遣解禁(※07年2月まで1年上限)
2007年(平成19年) 製造業の派遣期間が3年上限となる「製造業の請負事業の雇用管理改善・適正化促進の取組ならびにガイドライン」が発表される
2009年(平成21年) 06年3月以降に製造業の派遣を新たに始めた場合(※要労働者代表意見聴取)、最長3年制限の契約が終了する初回時期を迎える(=いわゆる2009年問題)

 

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【2】2009年問題と募る雇用不安

 製造業を中心に派遣されている派遣社員の多くの契約が期限切れを迎える「2009年問題」が深刻さを増しそうな雰囲気です。詳しくは以下で解説しますが、派遣労働者の3年間の契約期限が切れた後に企業が労働者を直接雇用することもできるわけですが、世界的な景気低迷で当然ながらメーカーは減産を進めていて、2009年問題は派遣社員の失業に拍車をかけそうです。昨年末から「派遣切り」や「派遣村」の問題がマスコミを賑わしていますが、本年、労働者の大量失業問題がさらなる大問題になって日本の労働者を襲う恐れも決して否定できません。

 本項では、その「2009年問題」とそれによってもたらされる雇用不安について、以下でなるべく詳しく取り上げ解説いたしました。
2009年問題〜契約期限切れで大量失業の恐れ〜

 「2009年問題」とは、正確に言えば「製造業の2009年問題」です。

 それでは、製造業の2009年問題とは一体どのような問題なのか? 本節では以下でなるべく詳しく取り上げ解説しました。
2009年問題とは?

 現在、製造業の「2009年問題」が浮上しています。

2009年問題をめぐる違法行為と通達内容 日本の製造業は、労働者派遣法で派遣社員の受け入れが今まで認められていませんでした。それは、「正社員から派遣への切り替えが進み過ぎると、メーカーが正社員を極端に減らして技術力が低下するなど産業の空洞化を招く」との懸念が根強かったからです。それがその後の法改正で04年3月から1年間の期限付きで解禁され、さらに契約期限が最長3年間に延長されたのです。
 こうした中で、いわゆる「偽装請負」が問題化した06年半ば以降、多くの企業が「請負」から「派遣」へ雇用契約の形を切り替えました。この結果、その当時から3年後に当たる本年すなわち09年度中に多くの企業で一斉に契約の期限切れを迎える派遣社員の雇用が脅かされると懸念されているのです。これがいわゆる「2009年問題」です。
失業者数は当初予想の3万人ではとても収まらない! 

派遣村 昨今のニュース等で既にご存知の通り、企業が派遣社員を削減する動きはまさにピークになったかの感さえあります。たとえば大手自動車メーカーのマツダは本年3月までに広島及び山口の2工場で契約期限を迎える約1,300人の派遣社員の再契約をせずに削減すると発表しています。海外での販売不振から4万8,000台の減産を決めた影響が真っ先に派遣社員に及んでしまったわけです。マツダは10月以降、09年問題への対応として、マツダが派遣社員を期間社員や正社員として直接雇用する形に切り替え始めたばかりですが、世界的な景気減速で、マツダも雇用調整を優先せざるを得なくなった形です。

 厚生労働省は昨年11月28日、10月から来年3月までに期間満了や契約途中での打ち切りなどで職を失う非正規労働者が全国で少なくとも3万人に上るとの調査結果を発表しましたが、恐ろしいことに、失業者はさらに今後も増えるだろうと予測されています。そして、後で触れるように、事実は怖れていた通りになってしまいました。先月27日付の読売新聞によれば、何と製造業の派遣・請負40万人が3月までに職を失う見通しであることが業界団体の試算によって明らかになったと言います。とにかく、当初予想の3万人の先々月に失業者を8万5千人と上方修正したばかりだというのに、2か月足らずでこのように飛んでもない数の失業者を予定しなければならないほど日本経済は待ったなしの状況に陥っているのだと言ると言ってよいでしょう。
企業が取る選択肢の問題

 派遣契約の期限が切れた後に、企業にはどのような選択肢が考えられるでしょうか? 

 企業の取る選択肢は、(1)3か月超のクーリング期間を置いた後、再び派遣契約を結ぶ(2)派遣から契約期間の制限が無い請負に雇用形態を変える(3)正社員や期間社員として直接雇用する(4)契約を打ち切る、の4つの選択肢が考えられます。でも、経営環境が厳しさを増している企業側は(4)の「契約打ち切り」に傾きやすいのが実態です。


 具体的に言えば、たとえばトヨタ自動車系の車両組み立て会社トヨタ車体は、派遣社員の昼と夜の勤務ダイヤを入れ替えることでクーリングを成立させ、3か月後に派遣社員として雇用しようとしましたが、厚労省が9月に出した通達で「派遣期間が過ぎた後も、同じ業務が必要な場合は直接雇用や請負に切り替えるべきだ」との見解を示したため、トヨタ車体は直接雇用に切り替えました。けれども、雇用形態を派遣から請負に切り替えるに当たっては、派遣先企業の従業員が指示や命令をしなくても済むように業務の習熟度を上げる研修などが必要で、時間やコストがかかり、企業は敬遠しがちなのも実情です。また、直接雇用も経営環境の悪化で進みにくい、という問題もあります。

 また、たとえばキヤノンは07年6月にグループ全体で約1万5,000人いた製造派遣社員を期間社員など直接雇用に切り替えてゼロにする計画です。そして、実際に派遣社員は08年10月末時点で約650人まで減りましたが、景気悪化で生産を減らすことにしたため、切り替えとは別に派遣社員250人の解約も進めています。このように、トヨタや日産、いすゞなど幅広いメーカーで派遣社員の削減が進んでいるのが実情なのです。
さらなる格差助長に繋がる怖れ

 ある調査によると、2009年問題対策として直接雇用を検討しているのは48%に過ぎないと言われます。さらに直接雇用の内訳は契約社員やパートが大半で、正社員化と答えたのは6分の1に過ぎません。契約が打ち切られる派遣社員が増えるだけでなく、仮に直接雇用されても、結局はパートなど不安定な雇用が増えて、さらなる格差社会の温床になりかねないとの懸念も大きいと言ってよいでしょう。しかも、2009年問題はタイミングが悪すぎると言わざるを得ません。何れにせよ金融危機の影響で雇用が一番厳しい時期だけに、請負や直接雇用への切り替えどころではないと考えている企業が多いのも事実で、そのため、今後さらに失業者が増える可能性も否定できないのです。
製造業が直面する「2009年問題」の深刻度

 先にも説明したように、本年すなわち09年には電機や自動車などの製造現場を支えている「派遣」労働者の雇用期間が一斉に3年を超え、メーカー側は、(1)「派遣」契約をいったん打ち切るか、(2)或は直接雇用に切り替える(=正社員化する)義務を負うことになります。しかし、現在の景気では特にメーカーが急激なコスト上昇を受け入れるとは考えにくく、労働力不足が発生するかも知れない怖れもあるのです。これは国内製造業が機能不全に陥る危機だと言ってよいでしょう。これが「2009年問題」の抱えるもうひとつの問題点です。
 ところが、2009年問題の孕む問題点の重大性に気づいているメーカーの経営者はほんのひと握りで、大多数はその認識すらないのが実情のようです。でも、一般には馴染みの薄い言葉ですが、この「製造業の2009年問題」は実は製造業の根底を揺るがす大問題なのです。


 大事な問題なので上記説明との重複を厭わず、以下で順を追って詳しく解説してゆくことにしましょう。

 まず殆どの製造現場では、「請負」「派遣」という非正規社員が数多く従事しています。「請負」と「派遣」の違いはその指示・命令系統で、人材派遣会社の現場責任者が指示・命令を出すのが「請負」、一方メーカー等の受け入れ先企業がそれを出すのが「派遣」です。
 そして04年3月、労働者派遣法の改正によって製造業への「派遣」が解禁された当時、雇用期間は1年に制限されていましたが、先にも触れたように07年3月以降は3年まで延長されました。この期間延長を見越して、2006年以降「請負」から「派遣」へのシフトが進んだのです。そして、06年7月以降の「偽装請負」の社会問題化もまた「派遣」シフトを加速させました。偽装請負は、請負労働者に対してメーカーが指示・命令を出す違法行為で、実情は「派遣」であるにも拘わらず雇用期限の無い「請負」を装っていたのです。当時マスコミに糾弾されたのは松下電器産業やキヤノン、トヨタ自動車といった大手トップメーカーでしたが、違法行為を繰り返してきた中小企業も含めて約9割は請負から派遣へ切り替えることになりました。

 しかし、06年に急加速した「派遣」シフトは思わぬ障害となって現われることになったのです。すなわち、「派遣」は雇用期間が3年を超えると、メーカーは派遣労働者に直接雇用(期間工を含む正社員化)を申し出る義務が生じます。そして、06年から3年が経過した2009年、派遣労働者の大多数が一斉に雇用期限を迎えることになるのです。とにかく、上でも書いたように、膨大な派遣労働者を直接雇用に切り替えるコスト負担をメーカーが受け入れるはずもありません。そして不景気に悩む昨今、その傾向を企業はますます助長してゆくことになるのは論を俟たないと言ってよいでしょう。


◆ワンポイント1: 派遣なのに請負を装う偽装請負とその仕組み
 請負は、業務を請け負った業者が自ら労働者に指示・命令するのが本来ですが、偽装請負とは、派遣先企業の従業員が請負労働者に対して指示・命令をする違法なケースを指します。要するに「偽装請負」とは、「派遣」と何ら変わらない雇用であるにも拘わらず、企業に都合のよい「請負」を装ったことが問題だとされたのです。すなわち、請負は契約期間に囚われずに業務を発注できるため、派遣に比べて企業側に都合がよい制度だったことが「偽装請負」の温床になったと指摘されています。

請負と派遣の相違


直接雇用されても「期間工」という現実

 確かに偽装請負など違法行為を犯した企業が社会から糾弾されたのはもっともなことですが、ところが、違法性ばかりがマスコミなどによって追及された結果、残念ながら違法行為の温床となっている労働法制の不備について根本的な議論がなされないままに置かれていることも問題だと言わざるを得ません。


 たとえば松下やキヤノンの例を見れば明らかですが、現行法制を遵守しようとすると派遣労働者を雇用することが難しく、かといって請負労働者を雇用しようにも、指示・命令の必要のない自動化された生産ライン要員でもない限り偽装請負を疑われてしまうという痛し痒しの問題がまず指摘できるでしょう。そして、派遣や請負の使い勝手がこれほど悪い労働法制の中で、2009年問題がやってきます。現在の景気から言っても、特に中小企業にとっては非正規社員を雇う採用コストやコンプライアンス(法令遵守)コストを払うゆとりなど殆どあり得ないのが実情で、とにかく、そう言った意味で2009年問題は倒産の危機でもあるのです。

 また、それ以外で大きな矛盾は、企業が派遣労働者を直接雇用に切り替えたとしても、それは大抵は雇用期限がある「期間工」で、結局のところ雇用者の待遇は改善されいないという点です。とにかく、労働者の人権を守る意味でも労働者派遣法の見直しが議論されて然るべきなので、そこには当然、正規社員と非正規社員の格差是正を前提とした労働法制全体のグランドデザインが必要であることは言うまでもないでしょう。
2009年問題と雇用不安

 「派遣切り」や企業による一方的な「内定取り消し」が横行する昨今、当初の失業者3万人の予想を遙かに超えて、3月までに9万人近い非正規労働者が失業するのではないかと懸念されています。そして、上でも詳しく触れたように、景気悪化を受けて雇用不安が高まる中で懸念されているのが、今後発生すると予想される「2009年問題」なのです。

 そこで本節では、多少の重複を厭わず、派遣社員だけでなく正社員にも及ぶ「雇用不安」の観点からこの「2009年問題」に再度迫ってみました。
3月までに非正規雇用者の40万人が失業!?

 厚生労働省の調査によると、昨年10月から今年3月までに失業したり失業することが決まったりしている非正規雇用の労働者は何と8.5万人超に上ると言われます(昨年12月19日時点)。そして、その67.4%、すなわち3人に2人が派遣社員で占められているのです。昨年11月の前回調査の結果である約3万人から、わずか1ヶ月で3倍近くに膨れ上っており、今年以降「派遣切り」などでその数がさらに増えることは想像に難くないと言ってよいのが実情です。事実、上でも触れたように、製造業の派遣・請負40万人が3月までに職を失う見通しであることが、業界団体の試算によってごく最近明らかになりました。これを見ても明らかなように、厚生労働省が先々月に8万5千人の失業者と予想を上方修正してまだ2か月ほどしか経っていないというのに、既にこの有様です。失業者数を幾ら上方修正しても、これではキリがありません。

 こうなっては、正規雇用の社員ももちろん昨今の雇用不安と最早無縁ではいられません。
 たとえば昨年12月9日にソニーが発表した人員削減策では、対象になる約1.6万人のうち半数の8,000人は正社員でした。景気悪化が進む中、他のメーカーや業種が追随するのは必至だと言ってよいでしょう。 ここに市場原理はついにその本性を現わし、企業は自らを守るために雇用者を情け容赦なく切り捨てて来ることでしょう。「派遣切り」はついには大幅な「正社員切り」となって、正規・非正規を問わず、雇用者に向かって牙を剥いて襲いかかって来るのです。
若者の長期失業が増加

 当然こうした深刻な現状に対しては、国際機関であるOECD(経済協力開発機構)も憂慮の念を示しています。その報告書である『日本の若年雇用(Job for Youth-Japan)』によると、07年の15〜24歳の長期失業率は10年前の18%から21%へと上昇する一方、就業率は41.5%と、先進国中心のOECD平均43.6%を下回わる水準です。つまり、分かりやすく言うと、若者が職に就くことが難しくなっている上に失業期間が長引く傾向にある、ということです。また、運よく仕事にありついたとしても、約3人に1人が派遣やパートなどの非正規雇用で、就職段階で正規雇用に就くこと自体が困難な状況なのです。そして、上で何度も触れてきたように、このように正規・非正規を問わず雇用不安が日増しに高まる中で懸念されているのが今年勃発する「2009年問題」であるわけです。


■全体の失業率と同じように動く若年失業率
若年失業率と全体の失業率

「偽装請負」の発覚や法改正で一斉に「請負」から「派遣」へシフト

 何度も説明しているように、2009年問題とは、製造業を中心とした派遣労働者の多くが09年中に雇用契約の期限切れを迎えることで大量の失業が予想されることで、その発端となったのが06年に問題化した「偽装請負」です。

 偽装請負とは、実態は派遣(※メーカーなどの派遣先企業が業務指示を出す)であるにも拘わらず、契約上は請負(※人材派遣会社の現場責任者が指示を出す)を装う違法行為で、要するに請負契約を結んだ労働者に対してメーカーなどが、派遣と同様に直接指示をしながら業務を行わせることを言います。製造業の現場では、こうした違法行為に中小企業から大企業まで多くの企業が手を染めていた事実が発覚し、06年に世論から厳しい批判を浴びたのです。
 そしてその一方で、これも既に何度か説明したように、労働者派遣法の改正によって製造業への派遣期限が07年3月以降それまでの1年から3年へと延長されたのですが、これらを背景に、06年以降、多くの企業が「請負」から「派遣」への切り替えを実施し、その3年契約の期限が2009年に一斉にやってくる、というわけです。
「3か月間の人手不足」で製造現場は機能不全に!?

 この期限切れの到来をこれ幸いとばかり、「派遣切り」に走る企業が相次ぐ一方で、一時的に人手が不足する事態も心配されています。

 派遣契約の場合、期間が3年を超えると、派遣先のメーカーには労働者に対して直接雇用(=期限付きの期間工や正社員として雇用契約を結ぶこと)を申し出る義務が生じます。そのため、メーカー側は、(1)直接雇用に踏み切るか、或は(2)派遣契約を打ち切るかの選択を迫られます。ただし、契約を打ち切った場合でも3か月の空白期間を置けば派遣での再契約が可能になるため、仮に多くの企業が直接雇用を嫌って派遣での再契約を選んだ場合、“工場などの製造現場は「3か月限定の人手不足」に陥り、大混乱を来すのではないか”と予想する声も多くあります。とにかく2009年問題には、このように日本経済を危機的状況に陥れそうな懸念すらあるのです。


◆ワンポイント2: 3か月超のクーリング期間とその問題点
 労働者派遣法では、製造業の派遣社員の受け入れ期間を最長3年と定めています。すなわち、企業が同じ派遣社員を続けて雇いたい場合、3か月超の空白すなわちクーリング機関がなければ、その労働者を「派遣」の形で雇うことができないことになるわけです。もっとも派遣先企業が同じでも全く別の業務を3か月超行なえばクーリングと見なされるのですが、企業にとっては生産効率が落ちるため、これは企業の実態に合っていないのではないかとの指摘も一部ではあるようです。そして、この「3か月超の空白(クーリング)期間」が、本文でも触れた「3か月限定の人手不足」を生む要因として製造現場等での混乱を来すことが怖れられているのです。

正規と非正規のアンフェアな格差解消が肝心

 ところで、先に紹介したOECDの報告書は、賃金や社会保障の差別など正規労働者と非正規労働者の格差を是正すると共に職業訓練制度を充実させることが大事だとする主旨の提言を行なっています。

 現状では、同じ仕事をする正社員と比べて派遣やパートなどの給料・ボーナスは低く抑えられています。その証拠に、企業は非正規雇用を増やす理由の筆頭に賃金節約を挙げています。しかし、賃金は本来その労働者がどんな価値を生み出したかで決めるべきるもので、仕事内容に拘わらず、パートだから一律いくらという決め方は、同じ仕事すなわち同じ価値を生み出す社員と比べ不公平との誹りを免れません。つまり、「同一価値労働・同一賃金」の原則に則り、当然ながら正規雇用と非正規雇用のアンフェアな賃金格差を解消することが不可欠だということになります。
企業は正規雇用への登用チャンスを増やせ!

 その一方で2009年問題による大量失業の発生が予想される以上、雇用保険を初めとしたセーフティー・ネットを充実させ、失業した時に被る痛手を軽くする対策も当然ながら急務です。この点について、政府が通常国会に出す08年度第2次補正予算案などでは、非正規労働者の保険加入や受給の条件が緩和される他、受給期間も一定の条件の下で延長される見込みです。遅まきながらの対策ではありますが、国も問題の深刻さに漸く気がつき出した様子です。そして、それと同時に企業側には、非正規から正規へ登用するチャンスを拡大し、「再チャレンジ」可能な仕組みづくりに励んで欲しいものです。

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【3】非正規雇用とその問題点

 景気悪化のためになりふり構わなくなった企業は、ここ数年来の「雇用の流動化」のかけ声の下、正社員が中心をだった従来の雇用形態を派遣労働者などの非正規雇用労働者にシフトとしてきました。その結果がツケとして、製造業を中心とした派遣切りの問題として現われてきたのです。
 本項では、終身雇用制度の破綻と雇用の流動化による非正規雇用労働が増加した背景と非正規雇用の孕む問題点について解説し、併せて世界の常識である「均等待遇」について取り上げ解説しました。
雇用の流動化と現代の貧困問題〜正規雇用と終身雇用神話の破綻〜


 今まで日本的経営の中核とされて、それなりに機能してきた「終身雇用制度」が実は神話にすぎなかったことが、働く貧困層であるワーキングプアの出現や昨今の派遣切りの横行などによって誰の目にも明かとなりました。

 本節では、非正規雇用の問題に触れる前に、その前提として知っておくべき背景として、終身雇用制度とその破綻について以下で詳しく解説しました。
小林多喜二『蟹工船』

日本的経営の破綻〜神話にすぎなかった終身雇用制度〜

 終身雇用とは、よく知られているように、学校を卒業してからひとつの企業に就職し、その企業で定年まで雇用され続けるという日本の正社員雇用において一般的とされてきた雇用慣行で、1958年にアメリカの経営コンサルタントジェイムズ・アベグレンがその著書『The Japanese Factory(日本の経営)』において日本の経営の特徴として終身雇用と年功賃金を挙げてから広く知られるようになった日本独特の雇用形態であると今まで言われてきました。
 そのため、終身雇用制度とは、日本に古くから伝統的な雇用形態であると考えられてきましたが、ところが事実は違っていて、終身雇用制度とは、太平洋戦争の兵役によって多くの人命が失われた結果、労働力不足に陥った産業界が人員確保のために採用した雇用制度だったのです。ここでもう少し正確に解説すれば、終身雇用制度は、明治時代の末から大正時代の初めにかけて大企業や官営工場が熟練工の足止め策として定期昇給制度や退職金制度を導入し、年功序列を重視する雇用制度を築いたことに起源を持っていると言われています。そして、戦後の高度経済成長時代には日本の大企業は可能な限り指名解雇を避けるようになり、また、裁判所が「解雇権濫用の法理」によって実質的に使用者の解雇権を制限するようになったことも相俟って、日本において一時期とは言え終身雇用制度の慣行が定着したのです。

 この終身雇用制度は日本の伝統的な雇用形態ではなかったことは上で見た通りですが、それでも日本的経営に特徴的な雇用形態とされるように、弊害もありましたが、利点も多くあったことは事実です。そのために慣行として続いてきたわけですが、しかし、1990年代から2000年代にかけて、円高や国際競争、またバブル経済後の平成不況の中で多くの日本企業が人件費の圧迫と過剰雇用に直面し、雇用の調整が大きな経営課題となる中で、終身雇用制度がわゆる「神話」にすぎなかったことが最早誰の目にも明らかになってきました。事実、70年代以降の不況時には大型のレイオフを行なう大企業の例などがあったことからも分かるように、終身雇用制度の特典を誰もが受けることができたのは、戦後の一時期に採用された労働者だけだったことになります。それ以降の世代は、終身雇用という神話を信じて採用された企業からリストラなどの人員整理を受けるのが当然な時代となったのです。終身雇用制度という神話は、だから戦後の一時期に機能しただけの雇用制度だったということになります。そして、終身雇用制度神話の崩壊は、いわゆる「日本的経営」の破綻をも意味していたことになると言ってよいでしょう。
正規雇用とは?

 期間を定めた短期契約で職員を雇う雇用形態である非正規雇用とは、期間を定めない雇用契約を結ぶ正規雇用の対義語ですが、その本来一般的であった雇用形態である正規雇用とは、使用者側である特定の企業などと雇用者側との継続的な雇用関係において、雇用者が使用者の元でフルタイムで従業する期間を定めない雇用形態を指しています。日本においては、90年代以降、派遣労働や短期雇用契約など正規雇用以外の雇用形態(=非正規雇用)と区別するために一般に用いられるようになりました。上で見た終身雇用制度の破綻が現実的になることによって、非正規雇用という表現が一般に用いられるようになってきた、ということもできるかも知れません。
雇用の流動化とその背景

 このような状況の中、経済界は「必要な時に必要な人材を」ということから「雇用の流動化」を推し進めてきました。これはすなわち、企業は労働力が必要な時には派遣など非正規雇用の労働者で賄い、それ以外の時期は人員を削減して不況に強い企業体質を作ってゆこうということです。そしてそのために、いわゆる正規雇用の正社員は必要最小限に抑えよう、というわけです。なお、終身雇用制度は雇用の流動化を疎外する力として働くため、これは終身雇用が制度としてまさに破綻したことを意味していると言ってよいでしょう。

 従来の正社員のリストラは、従業員が闘う意思を示した場合は企業にとっては厄介なことになるため、労働組合などの追及を交わし、雇用の流動化を促進するために、首を切りやすい派遣労働者を中心に雇い入れることで、特にここ数年、企業側は従業員無視・企業中心の経営を推し進めてきたわけです。派遣切りなどが横行するのもこのためで、景気が今後さらに悪化すれば、最近の内定取り消しなどに見るように新規採用の抑制はもちろん、さらには正社員切りのリストラに企業がなりふり構わず奔ることは必至だと言ってよいでしょう。


■雇用の流動化とその実勢
■労働者派遣事業数
労働者派遣事業数
■正社員数と派遣労働者数の推移
正社員数と派遣労働者数

ワーキングプア〜雇用の流動化と働く貧困層の出現〜

ネットカフェ かつては「働かざる者食うべからず」と言われましたが、現代では、石川啄木ではありませんが、「はたらけど はたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざり」で、昨今話題になった「ネットカフェ難民」にも象徴的に見られるように、若年層を中心に、このような「働けど食えない」「働く貧困層」の出現が見られます。

 これを別名「ワーキングプア」とも言うのですが、一般にワーキングプア(working poor)とは、正社員並みに或は正社員としてフルタイムで働いてもギリギリの生活さえ維持が困難、もしくは生活保護の水準以下の収入しか得られない就労者の社会層のことを言い、従来見られた典型的な失業者を始めとする貧困層とは異なり、先進国で見られる新しい種類の貧困として2006年以降問題視されています。最近、小林多喜二の『蟹工船』の内容が余りにも現今のワーキングプアの状況に酷似しているということから話題になって読まれているようですが、まさにこれこそ現代の「貧困問題」だと言ってよいでしょう。「ネットカフェ難民」などの問題にも典型的に見るように、ワーキングプアとは、その意味でまさに先進国における「働く貧困層」なのです。
 そして、このような若者を中心とした、「はたらけど はたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざ」るワーキングプアすなわち「働く貧困層」の大量出現は、先に見た大企業先導による「雇用の流動化」がもたらしたまさに現代日本社会の暗部だと言ってよいでしょう。正社員を中心とした終身雇用制度が事実上崩壊し、雇用が流動化した近代資本主義社会では、新たな「働く貧困層」の出現が余儀なくされるのは必然なのかも知れません。



■参考:世界の中でも意外と高い日本の貧困率
■貧困率の国際比較
所得の分布における中央値の半分に満たない人たちの割合(%)
相対的貧困率の国際比較
■年収300万円以下の人の割合
年収300万円以下の人の割合


■参考文献1:日本を蝕むワーキングプアの実体と若者の姿
NHK「ワーキングプア」取材班・篇『ワーキングプア 日本を蝕む病』ポプラ社 大山典宏『生活保護VSワーキングプア 若者に広がる貧困』新書
岩田正美 『現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護』ちくま新書) 門倉貴史『ワーキングプア いくら働いても報われない時代が来る』宝島社新書
水月昭道『高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院』光文社新書 川崎昌平『ネットカフェ難民―ドキュメント「最底辺生活」』幻冬舎新書

非正規雇用労働者の増加とその問題点

 バブル経済後の平成不況を乗り越えるべく企業が積極的に取り入れた雇用形態として派遣労働などの「非正規雇用」がクローズアップされました。

 本節では、その非正規雇用ととその問題点について以下で詳しく取り上げ解説しました。
非正規雇用労働者とは? 

 非正規雇用とは、期間を定めない雇用契約を結ぶ「正規雇用」の対義語で、期間を定めた短期契約で職員を雇う雇用形態を言い、日本では非正規雇用の労働者にはパートやアルバイト、契約社員、派遣社員が含まれています。
世界における非正規雇用労働者

 19世紀に起こった産業革命以降、産業の中心が工業となり、フルタイムの労働者が労働力の中核となり、この過程でいわゆる「男は仕事、女は家庭」というライフスタイルによる性的な役割モデルが確立されてゆくことになりました。しかし、20世紀前半の第2次世界大戦以降、いわゆるサービス産業が成長してゆくことでそのパターンに変化が生じました。
 すなわち、サービス産業は労働需要の変化が激しく、たとえばスーパーマーケットのレジでは時間帯によって必要な労働力が変わるなど1日の中でも需要が一定しない特色を持っています。そのため、従来よりサービス産業においてはフルタイム労働者よりも非正規雇用であるパートタイム労働者の方が都合がよい面がありました。また、近年女性の社会進出が進んでゆく中で、しかしその一方で女性は家事も担っていたために、女性が男性のようにフルタイムで働くことはやはり難しく、従ってパートタイム労働は女性にとって都合がよい労働形態であったのです。こうしてパートタイム労働者は労働市場の中でその規模を拡大していったのですが、その一方で待遇格差など様々な問題も生じることになったのです。


■EUにおける非正規雇用
EUにおける非正規雇用

日本における非正規雇用労働者

 日本においては、第2次世界大戦終戦後、兵役による死傷などで働き盛りの男性が一時的に不足したことも相俟って、工業が発達するに従って労働力が足りなくなると、まず最初は農家の次男を労働力として雇い入れましたが、それでも足りなくなると、家庭の主婦をパートタイム労働者として雇うようになりました。その後、バブル経済崩壊後の平成不況においては、日本的経営のひとつの柱でもあった終身雇用制を排し、さらにコスト削減の圧力から正規雇用(フルタイム労働)である正社員の採用を抑制し、その一方で非正規雇用の非正社員を増やすことで業務に対応するようになってゆきました。

 ここで労働者数の推移を見ると、80年代から雇用者に占める非正社員の比率は少しずつ増加してゆきましたが、90年代半ばからその増加傾向が著しくなり、05年には全労働者の約3割を占めるようになりました。これは主に女子学生や中年女性のパート・アルバイトが増加したことと、男女(特に女性)共に派遣・契約職員が増加したためです。そして、08年1〜3月期平均データでは、非正規雇用労働者の全労働者に占める割合は過去最高の34.0%を記録し、今や3人に1人超が非正規雇用労働者であるという事態になったのです(※なお、08年版の青少年白書では10代後半の非正規雇率は約7割と報告しています)。


■正規雇用労働者と非正規雇用労働者の推移
正規雇用と非正規雇用の推移

世界における非正規雇用労働者の待遇改善への取り組み


欧州における取り組み
 応酬においては、日本などと違ってかなり早い段階から正社員と非正社員の均等待遇(=同一労働同一賃金)の動きがありす。事実フランスは81年、ドイツは85年に差別的取り扱いを禁止しています。また、欧州連合(EU)では、97年に「パートタイム労働指令」が発令され、これによって、パートタイムを理由とした差別の禁止と時間比例の原則を適用することとなっています。なお、その背景としては、産業別の労働協約と賃金体系があり、フルタイムとパートタイムとで賃金が違うということが従来より余り無かったことが挙げられます。なおこれに関しては、企業側は賃金に対しては抵抗をせず、年金については一部抵抗しましたが、これは年金にかかるコストがパートタイムの方がかかるためです。たとえば1人のフルタイムを30年雇った場合と30人のパートタイムを1年毎に雇った場合とでは、同じ労働量に対して後者の方が事務コスト等が高くなるのです。

アメリカにおける取り組み
 アメリカにおいては、応酬と違って均等待遇という原則はありません。これは、「それぞれの雇用形態は企業と労働者の間の契約で取り決められたものだから、政府が法律で介入することはしない」という考え方によります。また、アメリカでの不平等とは、一般に人種や性・年齢といった自分で選択できないものであり、その一方で「正規・非正規といった雇用形態は自らの選択の結果である」という考え方があります。従って、アメリカにおいては人種や性別等での雇用差別への法律での対応は為されていますが、それ以外の事柄である正規・非正規での労働形態による差別に対しては法律による対応は為されていないわけです。そのため、労働者が広域な労働組合を組織し、企業や地方自治体に待遇改善を図る方向で動いています。

韓国における取り組み
 韓国においては、06年11月30日に国会を通過・成立した「非正規職保護法」があります。それは、(1)雇用期間が2年を超えた有期雇用者は無期雇用とし派遣労働者は直接雇用とすること、(2)賃金や勤務条件で正社員と不当に差別してはならないといった内容です。
 韓国では97年の経済危機をキッカケに非正規化が一気に進み、韓国の非正規社員率が55%(2人に1人超)と、日本の過去最高である33%を遙かに超える高い状況だったこともあり、上記の法が成立したわけですが、実際には非正社員が2年勤務の法実施の直前に大量に首切りしている事例が増えています。とにかくこの法律は企業側にとっての抜け道と不備がある法案で、非正規雇用の長期化は避けられましたたが、逆に継続雇用に支障を来しているため、労働者全体の地位向上には余り効果が出ていないことが伝えられています。また、この法の適用が大企業に限られていて効果が限定的であり、労働者の固着化や外注化が進むなど、却って非正規職労働者に不利に働く、といった批判も出ているのが実情です。ちなみに、平均月収88万ウォン程度で暮らす若者を指してある社会学者が名づけた「88万ウォン世代」という語が流行語となるなど、ワーキングプアは韓国でも大きな社会問題になっています。

日本における非正規雇用労働者の待遇改善への取り組み

 非正規雇用から正規雇用への転換については、制度自体がない企業も多く、制度がある企業でも適用例はさらに少ないのが実情です。また、多くの会社において「非正規雇用に対する差別や冷遇は当然」という認識があり、即戦力として扱えるスキルを持っていないと正社員と同様の収入になることは難しいのが実情です。
 もっとも一部では02年から07年までの景気回復による人手不足から、小売・流通業のように非正規雇用から正規雇用へと転換する動きがあったのは事実です。具体的に言えば、小売・流通業においては出店等による人材不足感が高まっており、たとえばワールドは06年11月に子会社のパートなどのうち8割に当たる約5千人を本社の正社員として採用しましたし、また、ユニクロを抱えるファーストリテイリングは07年3月5日に地域限定正社員制度を導入し、2年間で5千人を非正規雇用から正規雇用に転換すると発表するなどの動きがありました。また、他の産業では、たとえばトヨタが08年度に期間工1,200人を正社員化しましたし、三井住友銀行では派遣社員約2,000人を正社員化するなどといった動きなどがあり、また、前述の小売業や外食産業で人手不足を背景としたパート待遇の改善(試用期間を経た正社員採用など)の動きについての報告もあります。

 ただしその一方では、正社員の中にもいわゆる「名ばかり正社員」と言われる、非正規社員と大差ない給与で、雇用保険や厚生年金に未加入、昇給やボーナスもないといった労働者が目立つようになっており、正社員も非正規社員と同等の劣悪な労働環境に追い込まれるケースが増加しています。
 なお、「労働組合は正社員のためのもの」という認識が従来は罷り通っていましたが、非正社員の増加及び正社員の組織率の低下を受けて、近年は非正社員のための労働組合(たとえば首都圏青年ユニオンなど)も誕生し、非正社員の加入を認める労働組合が増加しています。
日本における非正規雇用労働者の形態


パート及びアルバイト
 期間契約労働者の一種で、厳密な定義はなく、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)」では「1週間の所定労働時間が同1の事業所に雇用される通常の労働者よりも短い労働者」と定義されています。また、総務省による労働力調査では、「勤め先での呼称がパート・アルバイトである者」となっています。なお、企業の現場では、パートとアルバイトを厳密に区別していない場合も多く見られます。また、パートは英語のPart Timerを語源とした略称で、正式にはパートタイマーと表現します。
 一般的に正社員と比べ労働時間が短く、時間当たりの賃金が安いのが特徴です。また、当然労働基準法の適用範囲内ですが、現状では多くの面において法律が適用されているとは言い難い面があり、福利厚生などの対象にもならないことも多く見受けられます。さらに、その構成は学生や主婦が多いため男性よりも女性が多く、また、年齢構成では15〜24歳といった若い世代よりも30〜40歳といった中年世代の方が多く見られます。なお、1年間の収入合計が103万円を超えた場合、所得税を納める義務が労働者側に発生するため、パート・アルバイトは賃金を103万円以下に抑えようとすることが多く見られるのもその特徴のひとつです。

契約社員
 短期契約で雇われる形態を広く指して言います。製造現場に勤務する者は特に「臨時工」とか「期間工」などとも呼ばれます。高度な技術を有した専門職の人が1年以内の契約を結んだり、或は一度退職した職員が再雇用で嘱託社員として雇われる形態も含まれます。固定給のみならず、営業職に多く見られる完全出来高制のような形態も一部にはあります。その構成は高齢層の割合が高いですが、一方では若年層でも契約社員になる割合は近年増えています。

派遣社員
 企業が派遣会社と契約を交わし、派遣会社が雇っている職員が企業に派遣されて業務を処理する形態を言い、指揮命令権は派遣先にあります。

 長い間、職業安定法の下、極めて限定的な雇用形態として位置づけられてきており、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(労働者派遣法)」の制定により正式に法律で規定されたのは86年になってからです。当初は業種が制限されていましたが、99年と04年に同法が改正されて業種が拡大、それに伴い、契約社員ほどではないが、派遣職員は増加傾向にあります。その構成は、女性と男性とでは女性が多く見られます。


■正規雇用労働者の内訳と推移

■正規雇用者が3分の1に!
正規雇用労働者の内訳(00年と06年)


■正規雇用労働者の内訳
正規雇用労働者の内訳(男女)


日本における非正規雇用労働者の傾向と特徴


■日本における非正規雇用労働者の傾向
大企業と中小企業とでは中小企業の方が非正規雇用の割合が大きい(※平成14年の就業構造基本調査より)
男性と女性とでは女性の方が増加傾向にあり、特に若年層でその傾向が認められる。たとえばバブル景気前(84年)とバブル崩壊及びその後の景気回復期(06年)とを比べると、若年層に占める正規雇用の割合は男性に比べて女性の方が低下幅が大きい

■日本における非正規雇用労働者の特徴
総じて時間当たりの賃金が安い
 たとえば女性の出産に伴う就業パターン変化による生涯賃金の推計を見ても、正社員として働き続ける場合と出産退職後パートタイマーとして再び働き出した場合とでは、賃金だけで2億円近い差が生まれると言われています。
労働時間が短いことが多い
雇用契約期間が短い
福利厚生が不充分
雇用が不安定
正社員になることが困難
女性、特に中高年が多い
男性は結婚率が低い

非正規雇用のメリットとデメリット


■非正規雇用のメリット
■使用者側(=雇う側)のメリット
需要や収益の変化に対応した調整を職員の増減で行ないやすい
時間当たりの賃金が安く、(これは法律違反になるが、退職金や社会保険を払わないことも多いため)人件費を抑制しやすい
社員の教育費が削減できる
■雇用者側(=雇われる側)のメリット
自分の都合に合わせて仕事の時間や期間を調整できる(※一例として、たとえば「主婦などは、正社員にはならず短時間で働きたいという人もいる」という声もある)
多くの企業に触れて経験を積むことができる

■非正規雇用のデメリット
■使用者側(=雇う側)のデメリット
知識・技術を社内に蓄積しづらい。特に製造業では熟練工、サービス業ではいわゆるベテランが育ちにくい
正社員と比べ会社に対する忠誠度・責任感が低い
■雇用者側(=雇われる側)のデメリット
賃金が安く、また、賞与が出る場合も殆どなく、仕事の内容が正社員と同じであっても低賃金である
勤続年数が増えても、また仕事の能力が上がっても、昇給は殆どない(※これは反面、使用者にしてみれば人件費を抑制できるというメリットにもなる)
退職金が払われないケースが多い
常に自分自身でスキルアップを図らねばならない
雇用形態が短期契約のため将来への展望が不安定

日本における非正規雇用者の現状

 誰しもが認めるように、非正規雇用者は極めて弱い立場にあります。
 2000年代は輸出産業である製造業が好調でしたが、人手不足は外国人労働者を含む派遣社員を中心に非正規雇用で賄われたため、海外市場の減速が製造業を直撃した昨年の秋頃から、非正規雇用者の解雇・雇い止めが増加しました。その結果、職を失った多くの非正規雇用者たちが路上へ放り出されたことは皆さんもニュース等でよくご存知の通りです。また、製造業以外の職種でも非正規雇用労働者の解雇・雇い止めが進んでいるのが実情で、その傾向は今後ますます続きそうです。


■若年雇用者に占める非正規雇用労働者の割合(%)
若年雇用者に占める非正規雇用労働者率

■ネットカフェ難民と平均給与比較
ネットカフェ難民と平均給与比較

■下層労働者の居住・生活形態
下層労働者の生活形態

非正規労働者と均等待遇

 正規雇用であると非正規雇用であるとを問わず、同じ仕事をしているのならばどちらも同じ給料を支払うのが世界の常識です。これを一般に均等待遇と呼んでいますが、日本の企業はILO(国際労働機関)の勧告を無視して、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間に格段の賃金・待遇格差を設けて恬として恥じません。

 非正規雇用労働者差別の実態を知るためにも、本節では、この「均等待遇」の問題について以下で詳しく取り上げ解説しました。
均等待遇って何?〜同じ仕事で同じ賃金は当たり前〜

 均等待遇とは、正規雇用とパートなどの非正規雇用とで賃金格差を設けず、同じ仕事内容ならば同一賃金で雇い入れるという考え方を言います。
 正社員のあの人とパートの私は同じような仕事をしているのに、私のもらう賃金は半分だというので、納得のゆかない思いをしている人もいるだろうと思います。しかし、ヨーロッパでは、同じ仕事をすれば時間当たりの賃金は正規もパートも同じである「均等待遇」が常識で、均等待遇は今や世界の常識になりつつあります。
均等待遇、日本では?〜日本では同じ仕事でも賃金格差があるのが当たり前〜

 全労連パート臨時労組連絡会が02年行なったパート及び臨時労働者の実態アンケートでは、「職場における不満・不安」のトップ3は、(1)正社員との差別がある(2)賃金が安い(3)職場の先行きが見えない、となっているそうです。「賃金が安い」という不満も、これは職場の正社員すなわち正規労働者と比べてのことで、現在「パートは不当に賃金労働条件が低い」という大きな不満が職場に渦巻いています。そればかりではありません。夏期・年末年始休暇や慶弔休暇、生理休暇、福利厚生、交通費の支給にまでパート及び臨時労働者は正規労働者と差別されています。これでは、世界の常識である「均等待遇」と余りにも懸け離れていると言わざるを得ません。


日本の賃金格差
 パート労働者の多くを占める女性パートの賃金総額は正規男性の37.0%にしか過ぎないと言われます。また、パート男性でも正規男性の41.2%という大きな格差があると言います。このような大きな格差は国際的にも異常と言わざるを得ないでしょう。もうひとつ注目すべきことは、近年は正規労働者の賃金も低下していることで、そのため、職場の非正規雇用労働者の低賃金が正規労働者の賃金引き上げの重石となっていることも考えてみる問題だと言えましょう。

■先進国で最も低い日本の最低賃金額
先進国の中で最も低い日本の最低賃金

非正規雇用の若者が増大
 非正規で働く若者が昨今大変な勢いで増大しています。特に15歳から24歳の女性の急増が目立つと言われます。フリーターであるとかニートだと言われていますが、その背景としては、高校や大学を卒業しても正規での就職口が少ないことも大きな原因となっています。この若者たちが年収100万円から200万円程度で以後も非正規で働き続けざるを得ないとしたら、日本の将来は暗澹たるものと言わざるを得ません。

均等待遇、世界では?〜フルもパートも同一労働・同一賃金が当たり前〜

 EU(欧州連合)が97年12月に採択した「EUパート指令」では、「パートタイム労働であることを唯一の理由として比較可能なフルタイム労働者より不利な扱いをされないものとする」となっています。そのため、ヨーロッパ諸国では一般的にフルタイムでもパートタイムでも同一労働・同一賃金の原則が貫かれています。このため、たとえばフランス・ドイツ・イギリスは法律や規則で「均等待遇」を定め、実現に向かって前進しているのです。


世界の賃金格差は?
 均等待遇を法律で義務づけたり労使協定で改善が図られている国では、既に賃金格差は8割台から9割台に縮まっていると言われます。(なお、先にも触れたようにアメリカでは均等処遇を決めた法律はなく、各企業の判断に委ねられています。) 

人間らしい労働と生活を〜ILOとディーセント・ワーク〜


ディーセント・ワークとは何か?
 労働者の権利が保護され充分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事を意味しています。

国際労働機関=ILOとは?
 国際労働機関(ILO)の最も重要な機能は、国際基準を設定する条約及び勧告を3者構成(使用者・労働者・政府)の国際労働総会で採択することです。そして、その条約は、加盟国の批准によって、その規定の実施を義務づける拘束力を持っています。また、勧告は各国での政策・立法・慣行の指針となります。

ILOの目標
 ILOの任務の中核にあるのは、このディーセント・ワークの実現です。
 グローバル化は繁栄と同時に不平等ももたらしています。ILOの使命は自由・均等・安全・人間的尊厳といった条件の下で、世界中の人々がディーセント・ワークを探し出すのを手助けすることで、そのためILOでは、特に女性の雇用の拡大と質の向上に向けた支援や若年労働者や障害者、外国人労働者、先住民といった人々がディーセントな雇用を見つけられるようなターゲット層を定めた計画を実践しています。

日本ではなぜ「均等待遇」ではないのか?〜日本のパートタイム労働法とその指針〜

 「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)」が93年に制定されました。そして、この法律に基づき「事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等のための措置に関する指針」が定められています。しかし、この法律は「義務規定」ではなく「努力義務」であるため、制定後15年以上経った現在でも非正規雇用労働者の雇用状況は前進を見ることができない有様です。なお、03年の指針改訂では日本型均衡処遇のルールとして、正規と同じ人材活用の「仕組みや運用など」が、実質的に同じパートについては処遇の決定方式を合わせるなどとしましたが、この指針では差別的な労働条件が改善する実効性は乏しく、残念ながら現実の格差是正の解決とならないと言わざるを得ません。


差別放置は政府の責任
〜ILO100号条約は批准したのに、ILO175号条約は批准しようとしません〜
 ILO100号条約(同一労働・同一賃金)が67年に批准されて既に40年以上経過しました。そこには、労働基準法にも第3条「均等待遇」や第4条「男女同一賃金の原則」が明記されていますが、しかし、日本政府=厚生労働省は、パートの賃金格差は「社会的身分」による差別ではないとの詭弁を弄して、その違法性を現在まで認めようとはして来ませんでした。また、一方でEU諸国ではILO175号条約(パートタイム労働法)を批准し、国内法を改正するなどして均等待遇への道を着実に進んでいますが、しかし、日本政府は「均等待遇は日本の実態に馴染まない」などと非論理的な主張を繰り返して批准を拒み続けているのが現状です。

不安定雇用でコスト削減
 政府と財界は、企業の労働者を、まずはひと握りの正規雇用労働者で固めて、後の圧倒的多数は、企業の要請に応じて雇入れたり削減したりすることができる非正規雇用労働者で占める雇用形態を近年積極的に推進してきました。いわゆる「雇用の流動化」政策です。企業はグローバル経済下での生き残りをかけたリストラによる合理化を大々的に推し進めて正社員すなわち正規労働者を削減し、安くて幾らでも置き換えの効く労働力であるパートや派遣・委託・請負労働者に雇用を切り替えてきました。その結果、たとえば03年から04年のたった1年間で、正規労働者が76万人減り、非正規雇用労働者は55万人も増えましたが、この傾向はその後も変わらず、今後ますますの傾向に拍車がつくことが予想されています。

均等待遇実現で、男も女も生き生きと働ける社会へ

 均等待遇が実現すれば、その結果、パートからフルタイムへ、フルタイムからパートへの転換が容易になります。そうなれば、男女双方とも、個人個人のライフスタイルやその都度の介護や育児などの事情でパートかフルタイムかを選択することができるのではないでしょうか。均等待遇は、このように男女とも生き生きと働き続けるための重要な鍵となっているのです。


男女平等は世界の流れ
 男女雇用機会均等法が85年に制定されましたが、現在に至っても男女の賃金格差は一向に縮まっていないのが現状です。しかし、その一方では、たとえば住友や芝信用金庫、野村証券など男女差別撤廃闘争は、「男女差別は世界の流れに逆行している」という国際世論にも支援され、当事者と多くの支援者の長く厳しい闘いによって、差別是正など勝利的な成果を収めています。これらの成果は私たちが着実に男女平等社会への道に向かって前進をしていることを示していると言えるでしょう。

間接差別の横行
 男女雇用機会均等法により直接的な差別はできなくなりましたが、しかし、実質的な男女の区分けが未だに横行しています。典型的なのはコース別人事制度で、転勤のある「総合職」と転勤のない「一般職」に社員を振り分け、その処遇に差をつけるこの制度は、家族の責任が大きくのしかかっている女性に一方的に不利で、そのため、総合職の女性は3%弱にすぎないという実情があります。また、先にも見たように、パートや派遣に女性労働者が多く、しかも低い賃金労働条件であることも問題となっています。このような、公平を装いながら不均衡な結果をもたらすような基準・規定・慣行は、これを「間接差別」と言うのです。


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【4】どう乗り切る?派遣切りと2009年問題

 今や「派遣切り」「正社員切り」という名のリストラは日常茶飯事になりました。このようにその存亡をかけてなりふり構わずその本性を現わした資本主義社会とその経営陣に対して、私たちは一体どのようにしてじぶんの身を守ったらよいでしょうか? 
 本項では、派遣労働者が多少でも身を守ることができるように、参考までに失業保険の申請について解説し、併せて雇用維持の救世主として期待されるワークシェアリングについて紹介しました。
派遣社員の失業保険

 「2009年問題」とは「製造業の2009年問題」であったように、現時点で多発している派遣切りは製造業が多いわけですが、しかし、上で解説してきたことからも分かるように、その余波は徐々に影響を他の業界に与えてゆくことが充分に予想されます。決してあってほしくない話ですが、現在仕事のある人でも、万が一仕事が無くなってしまう恐れは当然ながら幾らでもあるわけです。

 そこで本節では、派遣労働者の失業保険はどうなっているのか、派遣労働者でも失業保険金は給付されるのか、今後の参考のためにも、本節では派遣労働者に限定して失業保険の申請等につき簡単ながら以下で解説しました。
派遣社員でも失業保険は申請できるか?

 万が一にも契約不更新や契約解除になってしまったら、どう対処したらよいでしょうか? そこで、次の仕事探しと同時に始めたいのが失業保険の申請です。失業保険が申請できれば、仕事が見つからなかった場合に失業保険金が給付されるので、多少でも安心感があります。でも、派遣社員でも失業保険が申請できるものなのでしょうか? 

 結論を言えば、派遣社員でも失業保険を申請し、給付を受けることができます。ただし、一定の条件に当てはまる人しか当然ながら失業保険金を受け取ることはできません。その条件は大きく分けて3つあります。
  1. 就業期間や保険加入期間に関する条件
  2. 現在の就業状況に関する条件
  3. 求職の申し込みに関する条件

 このうち、(2)は申請時に失業中であれば、また(3)はハローワークに申し込みをすれば、どちらも失業保険の申請が可能です。ここで特に重要なのが(1)の就業期間や保険加入期間に関する条件で、この条件を満たしているかどうかが失業保険を申請できるかどうかの鍵になります。
 その確認ができる書類を「離職票」と言いますが、この離職票は今まで登録していた派遣会社に発行を依頼し、手許に申請用紙が届いたら、まずその内容を確認し、署名捺印して派遣会社に返送します。そして、1週間ほどで派遣会社から正式な離職票が交付されることになります。
離職票を基に確認する失業保険を受けるための条件

 離職票には就業期間や保険加入期間等の情報が記載されています。それを見ながら、以下の条件に当てはまるかどうか確認しましょう。


離職の日から遡った1定期間に、次の(1)(2)の「被保険者期間」があるかどうか。

■1: 定年及び自己都合、懲戒解雇等により離職した方(=特定受給資格者以外の方)
 離職の日以前2年間に、離職日から遡って1か月毎に区切った期間に賃金の支払いの基礎となった日数が11日以上ある月が12か月以上あり、かつ雇用保険に加入していた期間が原則満12か月以上あること(離職票−2の9参照)
■2: 倒産や解雇等により離職を余儀なくされた方(特定受給資格者)
 上記(1)の要件を満たすか、もしくは離職の日以前1年間に離職日から遡って1か月毎に区切った期間に賃金の支払いの基礎となった日数が11日以上ある月が6か月以上あり、かつ雇用保険に加入していた期間が原則満6か月以上あること(離職票−2の9参照)


 今回は、今回は自己都合ではなく会社都合で離職することになってしまった場合についてのみ簡単に触れておきますが、会社都合で仕事をや得ざるを得なかった特定受給者の場合は自己都合による離職者と違って多少優遇されていて、まず失業保険の給付はハローワークに申請にゆき、受給資格が決定した日(=離職票の提出を求職のも吸い込みを行なった日)から7日間の待機期間を過ぎれば失業保険の給付が始まります。なお、給付日数は現在、解雇や倒産などの場合は原則90日から330日ですが、厚生労働省は昨年の12月5日に、派遣期間満了後に契約更新されなかったり、或は解雇や倒産によって失業したりした年齢の高い労働者に対して失業給付の受給期間を延長する内容で改正案を提出しています。延長期間は60日を軸に調整するそうで、より安心できるような体制が整うことが望まれます。
期待されるワークシェアリングとはどのような制度か?

 派遣切りから正社員のリストラまで雇用環境は悪化する一方ですが、そんな昨今、注目を集めているのがワークシェアリングです。

 本節では、雇用維持の救世主として期待されるこのワークシェアリングについて、ワークシェアリングとは一体どのような制度なのか、そして、諸外国はどんな方法で雇用を増やしたのかについて、日本におけるワークシェアリングの課題も含め、参考までに以下で取り上げ解説しました。
経営側がワークシェアリング導入を検討

 産業界で最近ワークシェアリングの導入論が急浮上しています。
 日本経団連の御手洗会長は本年の1月8日、「企業によっては労働時間を短縮して雇用を守ることを検討するところがでてくるかも知れない」と発言、「雇用対策について労働組合と話し合いたい」と労組側に呼びかけました。また、雇用確保の1手段であるワークシェアリングについても協議する意向を示しました。そこには、派遣契約を途中で打ち切るなどの「派遣切り」に対する経営批判が強まる中、経営側としては雇用維持に努力する姿勢を見せないと、間もなく始まる春闘でも不利な立場に立たされるかも知れないので対応姿勢を見せたという側面もあるかも知れません。
ワークシェアリング導入論を労組側はどう見ているか? 

 その一方で、対する日本労働組合総連合会(連合)の高木会長は、労働条件のあり方などを話し合うため、労使のトップ同士が協議する場を既に求めています。ただ、ワークシェアリングについては、連合内でもまだ意見がまとまっていない様子です。振り返ってみれば、雇用環境が悪化した02年、両者に厚生労働省を加えた政・労・使が揃ってワークシェアリングの普及に合意しましたが、ただその後景気が多少回復したこともあって、ワークシェアリングは結局定着せずに終わりました。労使双方は今後会談する予定ですが、ここでワークシェアリングがどんな形で議論の遡上に上るのか斯界より注目されています。
ワークシェアリングとは何か?

 以上で見たように雇用維持の救世主として期待が高まっているワークシェアリングですが、それでは、ワークシェアリングとは一体どのような制度なのでしょうか? 
 ワークシェアリングは、簡単に言えば、労働者1人当たりの仕事量を減らすことで労働希望者の全員で雇用を分かち合い、失業を出さないようにするための制度です。これは、景気悪化により雇用不安が発生した際に採り入れられる仕組みでもあって、まずは労働時間を短縮すると共に給料を引き下げる手法が主流です。
ドイツにおけるワークシェアリングの実例

 01年に勃発したアメリカの9.11テロ事件以降、航空会社のルフトハンザ社では、週5日労働を週4日に短縮、これに伴い従業員の給料は80%に削減されました。ただ同国の場合、日本と違って兼業規定(※従業員が他のアルバイトなどで働くことを会社側が禁じる規定)がないため、従業員は他のアルバイトや自営業などによって減収分を補うことも可能だったようです。
フランスにおけるワークシェアリングの実例

 フランスでは、法律の改正によって当初の週40時間労働を39時間、そして週35時間へと段階的に短縮しました。そして、39時間への変更の際は給料はそのまま維持されましたが、35時間への移行時には労働組合が給料削減に猛反発し、結局ワークシェアリングを導入した企業に政府が助成金を出すことになりました。やはりどこの国でも給料カットへの抵抗は大きいと言ってよいようです。
オランダにおけるワークシェアリングの実例〜「三者痛み分け」で失業率が劇的に低下!〜

 その一方で、ワークシェアリングの元祖として名高いオランダでは、その効果で失業率が劇的に低下したと言います。オランダでは失業率が12%超という雇用不況のどん底にあった82年に世界に先駆けてワークシェアリングを導入しましたが、その甲斐あって、00年には3%、そして01年には2%台へ失業率が劇的に改善しました。それでは、オランダでは一体どのようなやり方でワークシェアリングを導入したのでしょうか?


第1段階:
 労働時間を短縮すると共に労働者の給料をカット(ただし、労働時間に連動しない福利厚生などは経営側が維持)。また、政府は減税と共に社会保険料負担を軽減する措置を実施しました。
第2段階:
 パートタイマーを増やすことで雇用を拡大。


 詳しく説明しましょう。

 まず第1段階である緊急避難段階では、労働者が給料カットの痛みを受け入れる代わりに、経営側は労働者のための福利厚生などを維持し、また、その一方で、政府は社会保険料の引き下げなどにより労働者の負担を抑える政策を実施しました。要するに、3者それぞれが負担を分け合う「三者痛み分け」によって、働く人たちの負担を和らげる配慮が為されたことになります。これならば、労働者側が給料カットを受け入れることができたのも納得できます。
 そして、第2段階では、働き方を多様化することでパートタイム雇用を拡大しました。
オランダの6倍超の待遇格差をどう改善するかが課題

 以上、外国事例をいくつか見てきましたが、ワークシェアリングを導入する場合、労働時間短縮に伴う給料カットがまず避けられません。


 たとえば上で見たオランダでは、87年から働く女性が急増する中でその7割がパートで占められていましたが、ただ同国の場合、パートタイマーとフルタイマーの賃金格差が極めて小さく、僅か7%程度(女性)だったと言います。それに対して日本の場合はどうかと言うと、パートタイマーとフルタイマーの賃金格差は何と約44%(賞与を含む)にもなると言われます。日本においては、ワークシェアリングを云々する以前に、まずは正規雇用と非正規雇用の待遇格差を縮小することが先決だと言えます。

 このように日本においては、ただでさえ正規雇用に比べて冷遇されている非正規雇用の給料をさらに減らそうとすれば大きな反発を招くのは必至と言わざるを得ません。ワークシェアリングの議論以前に、オランダの6倍超に上る極端な待遇格差をどう是正してゆくか、とにかく真剣に考えるべき時が来ているようです。


■参考文献2:ワークシェアリング関連書
熊沢誠『リストラとワークシェアリング』岩波新書 脇坂明『日本型ワークシェアリング』PHP新書


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